吉良 吉陰の奇妙な音楽日記

It's Only Music, But I Love It.

CATFISH AND THE BOTTLEMEN Live in Japan (1/12)




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 私の今年の初ライヴでもあるCATFISH AND THE BOTTLEMENの来日公演ですが、バンドとしては2015年1月28日の代官山UNITでの公演になります。 2015年に一度、『FUJI ROCK FESTIVAL 2015』にも出演が決定していましたがキャンセルになってしまったので約2年ぶりの来日公演になりますが、2年前が代官山UNITの一夜限りだったのに対して、今回は大阪と名古屋も含めてのジャパン・ツアー。 ところが今回はメンバーが搭乗を予定していたフライト便がエアーライン側の都合でキャンセルになってしまい、ジャパン・ツアー初日の大阪公演がキャンセルになってしまうという、楽しみにしていた大阪のファンにとっては悲しいトラブルもありました…。 11日の名古屋公演と12日の東京公演は幸い行われ、私も無事、12日の来日公演を観ることが出来た次第です。 CATFISH AND THE BOTTLEMENの2015年の来日公演でもソールドアウトを記録して、元々、日本でも人気の高いバンドなのですが、昨年リリースしたアルバム『The Ride』も全英アルバム・チャート1位を記録して、前回の来日公演を観られなかったファンにとっては待望の来日公演と言えると思います。 また、この公演に来ているファンの多くはOASISなき後のUKロック・シーンを牽引する新世代のバンドとして彼等のライヴに大きな期待をしているのだと思います。

 私は先行予約での購入ではないので、A700番台というあまり良いとは言えない番号ですが、それでも、ベーシストのベンジャミン・ブレイクウェイの位置するステージ右サイドの(それなりに)前方をキープ出来ました。 ライヴの方は開演予定時間の19時30分を20分くらいオーバーしてから始まりましたが、オープニング・ナンバーはデビュー・アルバムの1曲目でもある「Homesick」からスタートし、続いて同じく『The Balcony』の2曲目になる「Kathleen」と続きました。 昨年リリースした2ndアルバム『The Ride』はデビュー・アルバムとは違った、どこか開けた明るい印象を感じさせましたが、やはり、どこかもの悲しい『The Balcony』の2曲はデビュー当時からCATFISHを好きな方にはたまらなく響くのではないでしょうか? 私もデビュー・アルバムのこの切ない哀愁感が大好きなので、この2曲でのスタートは嬉しいものがありました。 続いては『The Ride』からのキャッチーな「Soundcheck」に続き、『The Balcony』の「Pacifier」と、下記のセットリストを見ていただくとお分かりいただけると思いますが、『The Balcony』と『The Ride』の曲を半々づつバランスの良いセットリストになっています。 CATFISHの2枚のアルバムの楽曲は聴く人によっては曲も似たり寄ったりで平板に聴こえる方もいらっしゃるかもしれませんが、ライヴでは"静"と"動"のドラマチックな展開、どこか物悲しさを感じる陰影が、ライヴではより強く感じることが出来、フロントマンのヴァン・マッキャンが観客を煽りつつ、一緒に客に合唱を促しつつも、どこか陰のある彼自身のキャラクターは他のUKバンドのフロントマンにはいそうでいないタイプなのかもしれません。 またバンドとしても淡々と楽曲を定型的に演奏するだけでなく、曲によっては途中で展開を変え、曲の原型そのものを崩してオルタナティヴな磁場を作り上げ、ライヴで鍛え上げてきたバンドの真髄を見せつけられた気がします。  彼等の目指す先はスタジアム・バンドにのし上がることにあると思いますが、それはあくまでライヴ・ハウス・レベルで鍛え上げた屈強のライヴ・バンドとしての自信あってこそのもので、彼等がOASIS以来のスタジアム・バンドにのし上がる日もそう遠くはないでしょう。  ヴァン・マッキャンの存在感もさることながら、ベンジャミン・ブレイクウェイ(B)の重いビート、ジョニー・ボンド(G)のサイケデリック・ギターに根差した陰影のあるギター・プレー、そしてタイトかつ、バンドのグルーヴを支配するロバート・ボブ・ホールのプレーも称賛して然るべきでしょう。 最後は『The Balcony』のラスト・ナンバーでもある「Tyrants」で締めましたがアンコールは無し。 しかし、無駄にアンコールを入れずに一気に聴かせてくれたおかげで不満は全く残りませんでしたし、次回の来日公演では更にスケール感を増したライヴ・パフォーマンスが期待出来るのではないかと思います。

 最後はFacebookの友達のYoshidaさんと会い、音楽の話をしながら楽しく意気揚々と帰宅しましたが、実に有意義な時間を過ごすことが出来ました。 実は私は翌日には、THE NOVEMBERS、Lillies and Remains、PLASTICZOOMSが出演するイベント『BODY ―20170113―』にも行ったのですが、コレについては後ほど書かせていただきます、ではでは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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CATFISH AND THE BOTTLEMEN Live in Japan Setlist

January 12th Thurthday

(@AKASAKA BLITZ TOKYO)

 

 

1. Homesick

2. Kathleen

3. Soundcheck

4. Pacifier

5. Anything

6. Business

7. Fallout

8. Postpone

9. Twice

10. Outside

11. 7

12. Cocoon

13. Tyrants

 

 

 

 

 

 

 

CATFISH AND THE BOTTLEMEN|LIVE INFORMATION|SMASH [スマッシュ] Official Site

 

 

 

 

 


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『BODY -20170113-』楽しんでまいります♪




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『Plasticzooms』

PLASTICZOOMS

 

 

 

 

 

 

 2015年6月から1年間、ベルリンを拠点に活動を続けていた日本のニューウェーヴ・バンド、PLASTICZOOMSが今月11日にリリースしたばかりのアルバムで、バンドにとって通算4枚目、VINYL Junkie Recordings移籍初のアルバムになります。 

 PLASTICZOOMSは、DIY精神を大切にし、楽曲、アートワーク、マーチャンダイス等、全てをフロントマンのSHO ASAKAWAが手掛けています。 デビュー前から国内外に多くのコアなファンを持ち、7インチ・シングル「Under///Black」が、UKの名門レーベル「Rough Trade Records」で扱われていたりもしました。 また、ファッション・アイコンとしての人気も集めており、ファッション・ブランド"THE REALITY SHOW"への登場を始め、2ndアルバム『STARBOW』では東京コレクション・ブランド"DISCOVERED"とコラボレーションしマントを制作した他、アクセサリー・ブランド"JAM HOMEMADE"とのコラボレーション・ネックレス制作、UKのストリート・ブランド"LONG CLOTHING"との交流等、ファッション界の様々なクリエイターから支持されています。 自身のファッション・ブランド"VENUS ECCENTRIC"も運営しているASAKAWAですが、元々はファッション雑誌『BOON』で見たSEX PISTOLSの写真に惹かれ、ヴィヴィアン・ウェストウッドとマルコム・マクラーレンが仕掛けた世界観に共鳴したことが、音楽とファッションをリンクしたPLASTICZOOMSのDIYな世界観に繋がったのだと言えると思います。

 PLASTICZOOMSは基本的にSHO ASAKAWA(Vo)、TOM TAKANASHI(G)、JUN YOKOE(B)の3ピース・バンドで、70'sパンク、ニューウェーヴ、ゴシックをルーツにしたバンドですが、シュゲイザーやインダストリアルのサウンドも挿入されていて、決して古典的なパンクやポスト・パンクの模倣に終わらない、先鋭的で美意識の高いサウンドを追求しているバンドです。 2013年発表の前作『Critical Factor』ではパンク/ニューウェーヴという枠組みを超えた、高いロマンティシズムを感じさせる幻想的で美しいドリーミーな世界観を追求した傑作に仕上げ、2014年にリリースしたEP『Secret Postcard』もその美しい世界観を踏襲したものでした。 4年ぶりのフル・アルバムになる本作は2015年からベルリンを拠点に活動していた成果を反映した、よりダンス・ビートを強調した作品に仕上がっており、ニューウェーヴというよりはKMFDMを思わせるインダストリアル系の作品になっていると思います。 KMFDM的なインダストリアル風な楽曲は過去のアルバムでも聴くことは出来ましたが、ドリーミーな作品だった前作よりも更に肉感的に感じられると思います。 前作でもマイケル・センベロの「Maniac」(原曲は映画『フラッシュ・ダンス』のサントラ盤に収録されていたダンス・ナンバーで全米で大ヒット)のカヴァーも収録されていたので、こうしたダンサブルなサウンド路線も違和感はありませんが、ゴシックな美意識を失わずに肉感的なダンス・ビートのインダストリアル・サウンドは、PLASTICZOOMSの世界観をより屈強のものにしたと思います。 私もタワー・レコードの通販で届いたばかりの状態で、細かい部分までは充分に聴けていないかもしれませんが、それでも昨日、自身のウォークマンに音源を入れて何回も聴きたくなってしまった中毒性の高いアルバムです。

 個人的には今月13日にTHE NOVEMBERSやLillies and Remainsと一緒に出演するイベント『BODY -20170113-』で、PLASTICZOOMSのライヴを初めて観ることになりますが、このアルバムを聴いてPLASTICZOOMSの生ライヴがますます楽しみになりました。 様々なファッション・ブランドとのコラボレーションの話題が先行してしまうバンドですが、生のライヴの方もおおいに楽しみにしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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『BODY -20170113-』詳細リンク(↓)

http://www.unit-tokyo.com/schedule/2017/01/13/_20170113_body.php

 

 

 

 

 

 

 

 


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来年の期待の新作(THE JESUS AND MARY CHAIN、The xx他)






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 『Damaged and Joy』

THE JESUS AND MARY CHAIN

(輸入盤 2017年3月24日発売予定/日本盤発売日未定)

 

 

 

 バンドにとっては1998年の『Munki』以来のスタジオ・アルバムで、2007年の再結成以来、初のアルバムになります。 プロデュースはKILLING JOKEのユースで、アルバムではベースも担当しています。 レコーディングにはバンドのツアーにも参加していたドラマーのブライアン・ヤングと、元LUSHのベーシスト、フィル・キングも参加しています。

 

 

 

 

 

 

 

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 『I See You』

The xx

(日本盤・輸入盤共に、2017年1月13日発売予定)

 

 

 

 

 

 

 今年12月にも来日公演を行った、前作『Coexist』から約4年半ぶりとなる、The xxの3rdアルバム。 本作は2014年3月から2016年8月までの間に、ニューヨーク、テキサス、レイキャヴィーク、ロサンゼルス、そしてロンドンと世界各地でレコーディングを敢行。 過去2作品の内向的でメランコリックな作風から、よりオープンになり大きな飛躍を遂げた作品に仕上がったとのことで、2017年にリリースされる新作の中でも最も期待して良い一枚に違いありません。

 

 

 

 

 

 

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 『Blue』

COMMUNIONS

(日本盤・輸入盤共に、2017年2月3日発売予定)

 

 

 

 

 2017年の2月25日と26日に開催される『HOSTESS CLUB WEEKENDER』への出演も決定している、デンマークコペンハーゲン出身のバンド、COMMUNIONSのデビュー・アルバム。 2015年にはセルフ・タイトルの日本編集EPもリリースされ、日本でも注目のバンドですが、THE STONE ROSESTHE SMITHS直系のギター・ポップで来年、リリースされるデビュー・アルバムの中では個人的に最も期待したい一枚。 ICEAGE以来、コペンハーゲン・ロック・シーンのバンドでは最も注目すべきバンドで『HOSTESS CLUB WEEKENDER』のパフォーマンスも非常に楽しみになると思います。

 

 

 

 

 

 

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 『Different Creatures』

CIRCA WAVES

(輸入盤 2017年3月10日発売予定/日本盤発売日未定)

 

 

 

 

 

  2014年・2015年と2年連続でサマソニ出演を果たした、2015年にリリースしたデビュー・アルバム『Young Chasers』以来となる2ndアルバム。 本作では敏腕プロデューサーとして名高いアラン・モウルダーを迎え、よりラウドで活力に満ちた作風になるとのことで非常に楽しみな作品になりそうです。 元々、キャッチーなロック・チューンとライヴでの実力で頭角を表したバンドだけに、2作目にあたる本作はデビュー・アルバム以上の作品になりそうな予感もします。 しかし、このTHE RESIDENTSみたいな目玉ジャケだけは勘弁して欲しかったなぁ~ (苦笑)。

 

 

 

 

 

 

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 『Volcano』

TEMPLES

(輸入盤 2017年3月3日発売予定/日本盤発売日未定)

 

 

 

 

 

 今年8月の『HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER』にも出演を果たした、TEMPLESが2014年にリリースしたデビュー・アルバム『Sun Structures』以来となる2ndアルバム。 バンド自身によるセルフ・プロデュース作品になりますが、ミックスを手掛けるのはデヴィッド・レンチ(Caribou、Owen Pallet、FKA twigs)が担当し、更なる飛躍が期待出来そうな作品になりそうです。 今年はUKサイケデリック・バンドとしては、TOYが素晴らしい作品を仕上げて、私もこのブログの"Best Album of the Year 2016"の3位に選出したほどでしたが、TEMPLESにもおおいに期待しています。 私は個人的に『HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER』の彼等のライヴを途中まで観たものの、体調不良で彼等のライヴを最後まで観られなかった後ろめたさはありますが (苦笑)、来年のアルバムだけはしっかりと聴かせていただきたいと思っています。

 

 

 

 

 

 

 

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Best Album of The Year 2016




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  今年(2016年)も終わりに近づき、世界中の音楽メディアでアルバムの年間ベスト・アルバム・ランキングが発表されていますが、私も昨年(2015年)に引き続き、私が選ぶ今年の年間ベスト・アルバム・ランキング10枚を発表させていただきました。 まず、このアルバムを選ぶ原則条件として、選ぶアルバムは2016年1月1日から同年12月31日までに発表されたスタジオ・フル・アルバム、若しくはフル・ライヴ・アルバムでEPや編集盤、リイシュー盤は含まないことにしています。 ただし前述の条件を満たしていれば洋邦問わず、ジャンルも不問ということにしています。 今回の私が選んだアルバムは、Facebookやブログを通して私のことをご存知の方は、如何にも"吉良吉影らしい"ランキングになっていると思うことでしょう。 HURRICANE #1 やMARCHING CHURCHのアルバムが堂々と年間ベスト3に入れるのなんて、私ぐらいなもんでしょうけど(笑)、来日公演での思い出が多分にランキングに反映されている点は否定しませんが、アルバムの質もランキングに見合う内容になっているとは思います。 またアルバムの曲を生のライヴで聴くことで、よりアルバムの曲が印象に残り、それだけアルバムに対する思い入れというのも出て来るのは確かです。 音楽通や音楽IQの高い方から見れば、私の年間アルバム・ランキングなんか面白味に欠けるものかもしれませんが、音楽メディアはもちろん、一般の音楽ファンの方ともそれほど被りのない私独自のものになったと自負しています。

 また2017年の12月頃に同様のランキングのブログを書いた時に、今年以上の素晴らしいアルバムを振り返ることが出来たらと思います。

 

 

 

 


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【Best Album of The Year 2016】

(Selected by Yoshikage Kira)

 

 

 

 

 

①『Melodic Rainbows』

HURRICANE #1

(祝) 来日公演決定!! - 吉良吉影の奇妙な音楽日記

 

②『Telling It Like It is』

MARCHING CHURCH

(祝) 来日公演決定! - 吉良吉影の奇妙な音楽日記

 

③『Clear Shot』

TOY

THE HORRORSとTRAVISのお気に入りのサイケデリック・バンド - 吉良吉影の奇妙な音楽日記

 

④『Night Thoughts』

SUEDE

"夜の瞑想"とは未来を信じるポジティヴィティー… - 吉良吉影の奇妙な音楽日記

 

 ⑤『Distance Inbetween』

THE CORAL

2000年代以降のリヴァプールの最重要バンドの6年ぶりの新作 - 吉良吉影の奇妙な音楽日記

 

⑥『Curve of the Earth』

MYSTERY JETS

5月にも単独来日公演決定♪ - 吉良吉影の奇妙な音楽日記

 

 ⑦『Confession of a Romance Novelist』

THE ANCHORESS

ポール・ドレイパーとの共同プロデュース作品 - 吉良吉影の奇妙な音楽日記

 

 ⑧『Human Ceremony』

SUNFLOWER BEAN

(祝) サマソニ出演決定♪ - 吉良吉影の奇妙な音楽日記

 

 ⑨『Hopelessness』

ANOHNI

異形のトランスジェンダーの希望なき金字塔 - 吉良吉影の奇妙な音楽日記

 

⑩『Adore Life』

SAVAGES

2010年代最強のポスト・パンク・バンドの待望の新作 - 吉良吉影の奇妙な音楽日記

 

 

 

 

 

 

 

(※)ちなみに私が昨年(2015年)に選んだ年間ベスト・アルバムのブログはコチラです(↓)

 

2015年度・私的年間ベスト・アルバム10枚 - 吉良吉影の奇妙な音楽日記

 

 

 

 

 

 


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異形のトランスジェンダーの希望なき金字塔




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『Hopelessness』

ANOHNI

 

 

  Antony and the Johnsonsアントニー・ヘガティが、アノーニ(ANOHNI)という"女性アーティスト"として今年5月にリリースしたアルバムです。 アノーニは2003年にルー・リードのバック・ヴォーカルとして抜擢され、その歌声は"天使のようだ"と絶賛され、一躍、注目を浴びました。 ルー・リードのアルバムを始め、ブライアン・フェリーやルーファス・ウェインライト等、数多くのアーティストとコラボしてきましたが、私自身はビョークが2008年に発表した『Volta』に収録されている「The Dull Flame of Desire」でのデュエットで、アントニー・ヘガティ(当時)の人を包み込むような優しい歌声にすっかり惹かれてしまったのを覚えていますが、私のようにビョークのデュエットでアントニーを知った方も少なくないかもしれません。 2009年にリリースした3rdアルバム『The Crying Light』では、100歳を超えても舞台に立ち続けた世界的にも有名な日本の舞踏家、大野一雄氏の写真をアートワークに使用して、日本でも注目を集めるようになり、2010年には来日公演も実現しました。 そして、2010年には『Swanlights』をリリースし、約6年ぶりに名前だけでなく"性"も変えて本作をリリースしました。 ちなみにアノーニという名前は"彼女"自身がここ数年使い続けた名前だそうで、ジェンダーアイデンティティを他の人達とも共有したいという思いを2010年辺りから頻繁に考えるようになり、自分が男性の名前では生きていけないとまで思い詰めたそうで、今回の作品がAntony and the Johnsonsとは全く違うスタイルのエレクトニックな作品であることから、この機会に男性名であったアントニー・ヘガティという名前どころか"性"までも変え、サウンドと共に"生まれ変わった"のだと思います。 そして、この"生まれ変わった"アルバムのプロデュースを担当したのはアノーニ自身の他に、ハドソン・モホークとOneohtrix Point Never。 まず、Oneohtrix Point Neverことダニエル・パロティンは、エレクトロニック、アンビエント、ドローン系のフィールドで活躍するニューヨーク・ブルックリン出身のアーティストですが、アノーニが2010年に参加したアルバム『Returnal』は世界中の音楽メディアに高い評価を受けました。 一方、ハドソン・モホークはスコットランド出身のDJ、プロデューサーとしてエレクトロニック好きでまず知らない方はいないだろうという存在ですが、ハドソン・モホークの音楽が好きだったアノーニがハドソンに連絡をとったところ共演が実現し、ハドソン・モホークが昨年リリースしたアルバム『Lanturn』にアノーニがゲスト・ヴォーカリストとして参加。 『Lanturn』での両者の共演が本作の制作にそのままシフトしていったそうです。  もちろん、ハドソン・モホークとOneohtrix Point Neverとの共演から、本作がクラブ・ミュージックやエレクトロニカを前面に押し出したサウンドになることは予め、予想出来ることですが、むろん、アノーニが単なる享楽のクラブ・ミュージックなど作るわけもなく、本作で歌われている曲の歌詞は、世の不条理に対する怒りに満ちています。 アメリカの攻撃で家族を失ったアフガニスタン少女をモチーフにした「Drone Bomb Me」、オバマ大統領に対する落胆と失望を歌った「Obama」等、病めるアメリカを強く糾弾していて、BOMB SQUADのハンク・ショックリーが参加した、THE POP GROUPのアルバム『Honeymoon on Mars』と共通する部分があるかもしれません。 しかし、アノーニは怒りに満ちてはいてもマーク・スチュワートのように叫びまくることは全くせず、アントニー・ヘガティ名の時と全くと言っても良いくらい歌い方を変えずに"天使の歌声"のままでメッセージを発しています。 音楽だけを聴くととても気持ちの良いエレクトロニック・ミュージックなのに、実は痛烈なメッセージを残している。 シリアスなメッセージなのに聞き手を優しく包み込むようなアノーニのヴォーカルは"女性的"というよりは"母性的"に私は思えるのですが、アノーニのヴォーカル自体が性すら超越しているのかもしれません。 アメリカ大統領選挙が終わり、アノーニがおおいに失望感を感じたオバマからトランプに大統領は変わりましたが、アノーニはこの結果に何を感じるのか? しかしトランプにも幻滅して怒りのメッセージを発しても、アノーニの天使の歌声で我々、リスナーは少しは救われた気になるのでしょう。 Antony and the Johnsonsを聴く機会がなかった方は、比較的聴きやすい、このアルバムから聴くことをオススメします。 もうすぐ2016年も終わりますが本作も今年、音楽ファンが是非とも聴いておきたい一枚だとも思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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THE HORRORSとTRAVISのお気に入りのサイケデリック・バンド




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『Clear Shot』

TOY

 

 

 

  2010年に結成された、英ブライトン出身でロンドンを拠点に活動しているサイケデリック・バンド、TOYが10月にリリースしたアルバム。 アルバム・デビュー前からNMEの「今聴くべき100のバンド」に選出され、THE HORRORSのスパイダー・ウェッブも「昨年、登場した最もエキサイティングなバンド。 2012年のお気に入り」と絶賛し、THE HORRORSのオープニング・アクトとして起用。 また、2012年にリリースされたセルフ・タイトルのデビュー・アルバムは、NMEでも10点中8点と高評価を得ましたが、私個人としても、TAME IMPALAが2012年にリリースした名盤『Lonerim』に匹敵するアルバムだと思っています。 またTRAVISも自身の楽曲「Moving」で「今日は高速道路で、TOYを聴かなきゃ」と歌っているほど、TOYを気に入っており、ミュージシャンからも熱い支持を受けています。 2013年には早くも2ndアルバム『Join the Dots.』をリリースして評価を更に高め、3rdにあたる本作は3年ぶりのスタジオ・アルバムとなります。 2015年9月にはバンドの紅一点だったキーボード・プレイヤーのアレハンドラ・ディアスが脱退しましたが、TOYのサポート・アクトも務めていた、元PROPER ORNAMENTSのマックス・オスカーノルドが新たに加入し、マックス加入後初のアルバムにもなります。 ロンドン北東部のウォールサムストーにあるギターのドミニク・オデアの簡易スタジオで本作のデモ制作を開始し、昨年10月にはノーサンプトンでデモが完成。 続く11月の後半からはストックポートにある(本作のプロデュースを務めた)デヴィッド・レンチのイヴ・スタジオで本格的な録音に入りました。 「人里離れた一軒家に素晴らしいヴィンテージ機材がある」最高の環境のスタジオで行われたレコーディングは、バンドの創作意欲をおおいに刺激し、録音した曲から"最高の10曲に厳選し、更には完璧なアレンジで仕上げたアルバムはデビュー・アルバム以上のインパクトを持った傑作アルバムを生み出しました。 デビュー・アルバムでは、THE HORRORSの『Primary Colours』期のシュゲイジング・サウンドが印象に残りましたが、このアルバムでは初期TOYの持ち味の一つでもあったシュゲイジング・サウンドはほとんど聴かれず、フォーキーなサウンドも取り入れたヴィンテージなサイケデリックサウンドが主体になっています。 どこかノスタルジックでメランコリックな楽曲の印象から、DEERHUNTERを思わせるかもしれません。 ちなみにプロデューサーを務めたデヴィッド・レンチは、FKA twigsやJamie XX、CARIBOU等を手掛けてもいるので、このアルバムがハイファイなサウンドになる可能性としてあったわけですが、前述の新進気鋭のアーティスト達を手掛けたレンチは敢えて、TOYのサウンドをヴィンテージに仕上げながらも決して、古いサイケデリック・バンドのサウンドの焼き直しに終わらない、完璧なアルバムを完成させることに成功しました。 TOY本来の魅力でもあるメランコリックな楽曲を音を重ね過ぎずに、見事なアレンジで仕上げ、尚且つ、アルバム全体が流れるような構成に仕上げる手腕は見事としか言いようがありません。 全体の構成の見事さもさることながら、一曲一曲の楽曲の質の高さもずば抜けて高く、その点では、やたら音を重ねたがる凡百のサイケデリック・バンドがTOYに敵わない点だと思います。 TAME IMPALAはヴィンテージなサイケデリックサウンドからエレクトリック・ポップへと変化を遂げ、ANIMAL COLLECTIVEはよりシンプルなサウンドへと変貌していきましたが、更にヴィンテージなサウンドへと深化したTOYの新作は、今年最高のマスター・ピースだと私は思います。 このアルバムをきちんと聴かれた方は「高速道路じゃなくてもTOYを聴かなきゃ」と思われたと思います(笑) 英MOJO誌が「なんたる跳躍力、殿堂入りへの大きな一歩」とバンドの底知れぬ創作意欲を絶賛していましたが、このアルバムを何回か聴くに連れ、TOYが本当に殿堂入りする可能性を否定出来ない自分がいました。 いずれにしろ、このアルバムは今年最も聴かないと後悔する一枚に間違いありません。

 

 

 

 

 

 

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