吉良 吉陰の奇妙な音楽日記

It's Only Music, But I Love It.

"夜の瞑想"とは未来を信じるポジティヴィティー…



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『Night Thoughts』






 2010年の再結成から6年、2013年の再結成作第1弾のアルバム『Bloodsports』以来、3年ぶりの、先月発売されたばかりのSUEDEの再結成2作目にあたる新作です。
 2002年の『A New Morning』リリース時、ブレット・アンダーソンはドラッグを断ち、健康を取り戻しつつあったものの、創作意欲の煮詰まりと刺激の喪失で低迷から抜けだしきれず、"霊感を取り戻すまで"とのことでSUEDEの活動を凍結しました。
 そして、2010年に『Coming Up』期のメンバーで一夜限りのライヴを行うと、2011年に凍結を解除して本格的に活動を再開して、2013年には11年ぶりのアルバム『Bloodsports』をリリースしました。
 完全に霊感を取り戻した『Bloodsports』で過去の迷走を完全に払拭しましたが、更にバンドの創作意欲の高さを再結成2作目にあたる本作で感じることと思います。
 この本作のタイトル『Night Thoughts』は、18世紀に活躍した英国の詩人、エドワード・ヤングの同名の詩作集から採られていて、「墓場派」の詩人と称されたヤングの、死を運命と捉えて瞑想する世界観がアルバムにも大きく反映されています。
 実は昨年11月に、このアルバムの全曲再現ライヴがロンドンで行われているのですが、ショート・フィルムと演奏を同期させながらのライヴで、このアルバムが映像を意識して制作されたコンセプチュアルなアルバムであることが、昨年の全曲再現ライヴからも理解出来ると思います。
 ダークでコンセプチュアルなアルバムという点で、本作は1994年発表の2ndアルバム『Dog Man Star』と比較されがちですが、『Dog Man Star』制作時はブレットが最もドラッグに浸っていた時期で、アルバム完成直前にはバーナード・バトラーが脱退とバンドにとっては決して状態が良かったとは言い難い状況だったのはファンの方にとっては周知の事実。
 衝撃のセルフ・タイトルのデビュー・アルバムと、ポップで質の高い楽曲を擁し多くのヒット曲を生み出した『Coming Up』の狭間で痛々しい印象すら残る『Dog Man Star』に対して、本作は霊感を取り戻して創作意欲も最高潮とも言っても良い状態が反映されていて、コンセプトそのものはエドワード・ヤングのダークな世界観を反映してはいるものの、肉感的で前向きなエネルギーに満ちた作品になっています。
 シンフォニックなストリングスで幕を開ける「When You are Young」から、どこか映画のサントラを思わせる雰囲気が漂っていますが、アルバム全体としても、細部までコンセプチュアルな流れるを意識して、サウンド面から各楽曲の配置まで細かい部分まで配慮されて制作されているように感じます。
 しかし、コンセプト・アルバムという体裁を保ちながらも、各楽曲の質の高さ、初期からのバンドの美意識の高さは決して初期に比べて全く見劣りのしないものになっており、デビュー・アルバムや『Coming Up』と並ぶ傑作アルバムと評しても差し支えないとすら思います。
 エドワード・ヤングの夜と死の世界観を体現しているので、歌詞はもちろんダークなのですが、「No Tomorrow」では明日のない悲観的な状況を歌いながらも抗う前向きな姿勢も歌われており、過去にドラッグ等で苦しみながらも前向きに生きてきたブレット・アンダーソンが自分の美意識・ナルシズムを体現しつつ、ひたすら前に進み続ける現在の状況が反映されていると思います。
 昨年の『HOSTESS CLUB WEEKENDER』では、MYSTERY JETSが新作『Curve of the Earth』の全曲再現ライヴを行いましたが、もし今年、SUEDEの来日公演が実現した時に本作の全曲再現ライヴでの公演も有り得るかもしれません。


































 
 
 
 
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