絶対王者が混迷の世に放つ10作目
『Medicine at Midnight』
FOO FIGHTERSに関しては、このブログでは2015年に『FUJI ROCK FESTIVAL 2015』のライヴ·レポを書いて以来、随分、久々に書かせていただくことになります。もちろん、わざわざ苗場に彼らを観に行ったぐらいですからFOO FIGHTERSを好きに決まってますが、彼らのアルバムについて書く機会と言うか…なかなかタイミングが無かったんですよね (汗)。まぁ〜、それはともかく、このブログでは(FOO FIGHTERSのアルバムとしては)初めて書かせていただく、2月5日に発売になったニュー·アルバム『Medicine at Midnight』について触れていきます。
思えば前2作はFOO FIGHTERSが新たなステージへと突入したアルバムだったと思います。2014年発表の『Sonic Highways』はアメリカを代表する8都市でレコーディングされ、ドキュメンタリー番組も製作された“アメリカ音楽史へのラブレター”。2017年発表の前作『Concrete & Gold』はFOO FIGHTERS史上、最もスケール感のあるサウンドにすべく、アデルやベック、シーアのプロデューサーとして知られるグレッグ·カースティンを起用した“MOTÖRHEAD版『Sgt. Pepper's Lonely Heart's Club Band』”。いずれのアルバムも大きな話題になり高評価を得ましたが、以前のシンプルで普遍的なサウンドから大きな変化を遂げたような気がします。『Sonic Highways』はより曲構成が複雑な楽曲が多く、キャッチーさよりアルバムのトータル性にウェイトが置かれている気がしましたし、『Concrete & Gold』は何処か米国社会の闇…と言うか、トランプ政権下での悲観的な米国の未来を暗示しているかのようなダークな重さを感じさせました。どちらのアルバムも妥協を許さないデイヴ·グロールらしく、比類なき完成度を誇るアルバムでしたが、以前のような親しみやすさからは、少しかけ離れた感は正直、否めないところでした。
2月にリリースされた本作は前作に引き続き、グレッグ·カースティンがプロデューサーを務めていますが、本作こそカースティンのプロデューサーとしての持ち味が発揮された作品かもしれません。ちなみにカースティンはシンガーソングライターのイナラ·ジョージと組んでいるポップ·ユニット、The Bird and The Beeのメンバーでもあります。実はデイヴ·グロールがThe Bird and The Beeの大ファンなのもあって、前作からカースティンをプロデューサーに迎えることにもなったわけですが、参考までにThe Bird and The BeeのMVも貼っておきます。
デイヴ自身、SCISSOR SISTERSのファンであることを公言していたこともある大のポップ好きでもありますが、The Bird and The Beeの他の曲も聴いていただくとカースティンのサウンド·クリエイターぶりが、より理解出来ると思います。
では、本作について触れていきますが、ブラック·ミュージック·テイスト全開の女性コーラスが印象に残る1曲目の「Making A Fire」からして前作のダークさとは打って変わったソウルフルな新しいFFサウンドが聴けます。このコーラスにはThe Bird and The Beeのイナラ·ジョージに加え、デイヴの愛娘のヴァイオレット·グロール、それからテイラー·ホーキンスのTHE COATTAIL RIDERSのライヴにも参加経験のあるサマンサ·シドリー、ローラ·メイス、バーバラ·グラスカもコーラスに参加しています。独特なビートが耳に残る2曲目の先行シングルもダークな印象はあるものの色気も感じさせ、聴けば聴くほど惹き込まれていく不思議な魅力を持った曲だと思います。ファンキーなビートから始まりながらも哀愁を感じさせる5曲目の「Medicine at Midnight」、極彩色豊かなサイケデリックな8曲目の「Chasing Birds」等、多彩なFFサウンドが楽しめますが全体的には力強い前向きなロック·アルバムになっていると思います。アルバムのラストを飾る「Love Dies Young」こそ“愛は若くして死ぬ”と言う歌詞で見る限り、決して明るい内容のナンバーとは言えませんが、この曲ですらエキサイティングで高揚感を感じさせてくれますし、しばらくFOO FIGHTERSの作品を聴いていなかった方も本作なら、すんなりハマれるはずです。コロナ禍で世界的に絶望的な状況の中で敢えて、ポジティブなロック·アルバムを製作したのかもしれませんが、そこは私には分かりません。しかし前2作で変化を遂げたとは言え、常にロック·ファンの目線は意識してきただけに、音楽として自分達もファンも本当に心から楽しめる作品を目指したとは思います。相次いで、ライヴが中止になり音楽を聴くことを心から楽しめなくなった昨年だったら、もしかしたら、こういう前向きな力強いロック·アルバムは素直に心に響かなかったかもしれません。ライヴを安全に観る状況にはほど遠いですが、コロナ禍にも慣れ、本来、自分が好きな音楽に素直に向き合えるようになった現在こそ、必要なアルバムかもしれません。年齢を重ねて棺桶に片脚突っ込んでいる私が(笑)再びFOO FIGHTERSのライヴを楽しめる日が来るのかは分かりませんが、彼らに再会出来る日が来ると信じたいと思います。