イギーのソロ史上最高のバンドによるラスト作(?)
『Post Pop Depression』
今月18日にリリースされたばかりのイギー・ポップの新作で、イギーの作品としては2013年発表に発表された、THE STOOGES名義での『Ready to Die』以来、3年ぶり。ソロ名義としては2012年のフレンチ・カヴァー・アルバム『Apres』以来、4年ぶりの作品になります。
本作のプロデューサーを務めているのは、QUEENS OF THE STONE AGEのフロントマン、ジョシュ・オムで、彼がイギーの新しいバンドのメンバーとして加わり、実質、イギーの創作パートナーとして重要な役割を果たし、事実上、このアルバムのイニシアチブを取っていると言っても過言ではないと思います。
今回のアルバムでのイギーのバンドのメンバーは、ジョシュの他に、QOTSAのメンバーであると共に、THE DEAD WEATHERのギタリストでもあるディーン・ファーティタ。ドラムスにはARCTIC MONKEYSのマット・ヘルダースと、おそらくはイギーの過去のソロのバンドのメンバーと比較して最も豪華な顔ぶれと言っても良いかもしれません。
ジョシュが、過去にARCTIC MONKEYSの3rdアルバム『Humbug』(2009年発表)をプロデュースしてから、QOTSAとARCTIC MONKEYS人脈での交流が盛んになり、特に今回のイギーのバンドに参加しているマットは元々、QOTSAの大ファン。
ジョシュがこうした両バンドの人脈を、本作のイギーのバンドでも駆使していることからも、今回のアルバムがジョシュ主導で制作されていることが理解出来ると思います。
そもそも、イギーとジョシュがどういう経緯で結び付いたのかは分かりませんが、元々、ジョシュ・オムがG.B.H.を始めとするハードコア・パンクを少年時代に聴いていたパンク少年だったという事実はあります。
ジョシュがQOTSAの前にやっていたストーナー系ロック・バンド、KYUSSに在籍していたことから、ジョシュ・オムという男をストーナー系に関連付けることが多々ありますが、QOTSAの元パートナーのニック・オリヴェリも大のハードコア・パンク好きでしたし、QOTSAやTHEM CROOKED VULTURESで一緒にプレーしてきた、FOO FIGHTERSのデイヴ・グロールも元々は、SCREAMというハードコア・パンク・バンドのドラマーを務めていたほどの大のパンク好きで、ジョシュ自身、かなり、パンクを通しての交流が多いのが事実です。
しかし、このアルバムでのイギーもパンクを演奏するためにジョシュを創作パートナーに指名したわけではなく、自らが新しい音楽を創造するために結成されたバンドという解釈が正しいと言えるかもしれません。
各音楽メディアは、過去のイギーのソロ作品を比較対象としていますが、この作品はあくまで4人のバンドとしての評価がなされるべきだと私は考えています。
ジョシュ自身は、イギーの過去のソロ作品『The Idiot』と『Lust for Life』を意識して制作したそうですが、1977年発表の前述の両作品は思えば、デヴィッド・ボウイが創作パートナーとして加わり、イギーの新境地を開いた作品。
ジョシュがイギーのソロ・キャリアを意識して制作しても、もちろん、その当時のボウイと築いた世界観そのものには無論ならず、ジョシュがARCTIC MONKEYSの『Humbug』の制作に関わった時のようなシンプルなロック・サウンドがベースになっています。
ジョシュ人脈でのバンドゆえ、どうしても基本的にサウンドがQOTSA云々になるのは避けられないのではありますが、充分、イギーらしいヴォーカルを活かした楽曲が揃い、成熟したイギー自身のヴォーカルも豪華なバンド・メンバーに負けない威厳を保っていると思います。
ファンク・ビートを織り込み、女性ヴォーカルを入れた(ジョシュもバック・コーラスを務めています)「Sunday」は特に秀逸で、フラメンゴ風味の「Vulture」でも、ストリングスとヘヴィーなギターを絡めて独創的な世界観を構築する等、シンプルに聴こえるようで細かいサウンドの工夫も堪能出来る作品にもなっています。
イギーとジョシュの織り成す濃い世界観が味わえる、この作品は実に細部に渡るサウンド作りも聴きもので、全く飽きがきません。ジョシュ主導でありながらも、そのジョシュの期待にイギーが必要以上に応え、実に奥行きの深い傑作に仕上がったと思います。
このアルバムがイギーのラスト作品になると言う噂もありますが、それだけ、イギーがこのアルバムで力を出し切ったということでしょうか?
このアルバムがラストかどうかは分かりませんが、イギーのソロ史上最高のバンドを日本で観られることを期待したいものです、ジョシュがQOTSAの活動を再開する前に…