吉良 吉陰の奇妙な音楽日記

It's Only Music, But I Love It.

2020年代進化形ハイブリッド·サイケデリック·サウンド


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『925』

SORRY

 

 

 昨年12月に『Best Album Of The Year 2020』を発表させていただきましたが、昨年に限らず、年間アルバム·ベスト10を発表する際、実は必ずと言って良いほど、このアルバムは絶対に10枚に入れるべきだったと思ったり、或いは泣く泣くベスト10から外さなきゃいけないアルバムが出てきたりがあるのですが、このSORRYのデビュー·アルバムも素晴らしい出来にも関わらずベスト10から外れてしまったアルバムの一枚です。しかし、このアルバムは私が昨年選んだ10枚から外れたとは言え、未来の英国ロック·シーンにとって重要な一枚になる可能性も秘めたアルバムです。

 

 ここ2〜3年、正確に言えば2018年に南ロンドン出身のSHAMEとGOAT GIRLのデビュー·アルバムが、そして2019年には北ロンドン出身のblack midiSQUIDが音楽メディアに大きな称賛を浴びるようになり、特にライヴハウス「Windmil」を拠点にしている南ロンドン勢は大きく音楽メディアに注目を浴びるようになりました。この“南”の盛況故か、このバンドもしばしば南ロンドン勢として扱われていますが、このバンドはロンドン北西部カムデン出身です。

 度々、前置きが長くなってしまい申し訳無いのですが、アルバムの内容に触れる前にバンドの経歴を簡単に説明したいと思います。SORRYは7歳からの友人でもあるアーシャ·ローレンツとルイ·オブライエンを中心に結成され、後にドラマーのリンカーン·バレットとベーシストのキャンベル·バウムが加わり現在の形のバンドになりました。ちなみにアーシャとルイの二人は中学生時代はカヴァー·バンドをやっていて、ジミ·ヘンドリックス等のロック·クラシック等をレパートリーにしていたそうです。そんな彼らも音楽情報が蔓延している現代の若者世代らしく、急激にヒップホップに傾倒。特にPro Eraのミックス·テープ『PEEP: The aPROcalypse』を1年半くらいハマっていたそうで、特にロックと言う枠にハマることなく、この時代にコンピューターで音楽を制作する楽しみを覚えたことが、通常のギター·ロックの枠を超えた彼らの個性に繋がったのだと思います。そして2017年に「Domino Records」と契約すると、同年12月にデビュー·7インチ·シングル「Wished/Lies」をリリース。この後も何枚かシングルをリリースし、SUNFLOWER BEANやAlex Gのサポート·アクトを務めてキャリアを重ねると、既に2018年にデビュー·アルバムが高い評価を得ていたSHAMEやGOAT GIRLに続く次世代のバンドとして注目され始め、ようやく2020年3月にデビュー·アルバム『925』がリリースされました。

 この待望のデビュー·アルバムを手掛けたのは、GorillazやJamie Tを手掛けたジェイムズ·ドリング。ギター·ロックだけでなくヒップホップも傾倒してきた彼らには正に打ってつけのプロデューサーと言えると思いますが、サイケデリック·サウンドを基調としつつ、ギター·ロックからトリップ·ホップ、エレクトロニクス、ジャズまであらゆる音楽を飲み込んだハイブリッドかつ酩酊感を感じさせる摩訶不思議な世界観を構築しています。サイケデリック·サウンドを基調としていると言う点では、GOAT GIRLと共通していますが、あくまでアナログ·サウンドに拘ったGOAT GIRLに対し、SORRYは古典的要素がありつつモダニズムを感じさせるところがあるところに違いを感じるはずです。アーシャとルイの男女二人故か、1曲目の「Right Round the Clock」に代表されるような恋愛の愛憎関係を描いた曲も何曲かありますが、心地良さを感じる浮遊感にも関わらず(それが社会に対するものか個人的なものかはともかく)何処かヒリヒリとした歪みも感じます。或いはまるでパンデミックの到来でも予想したかのような“死”をテーマにした美し過ぎる「In Unison」があったりもします。もちろん、このアルバムはコロナ禍以前に制作されたアルバム故、コロナによるパンデミックとは無縁だったはずのアルバムですが、運悪くアルバム·リリース後にツアーが出来なくなったのだけは残念です…。ちなみにこのアルバム·タイトルの『925』ですが、コレはアルバム収録曲の「Rock ‘n’ Roll Star」の歌詞の「Silver 925」から取られていて、純銀の本当の銀の割合は100%ではなく実際には92·5%だと言うことから“不完全”を意味するのだそうです。本作はかなり完成度の高いアルバムですが、彼らの潜在能力からすれば、次作は更に“完全”なアルバムに近づくのではないでしょうか?

 

 

 

 

 


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https://youtu.be/FiBTA5BCl1Y

 

 

 

 

 


https://youtu.be/Cshb6NAwcFo

 

 

 

 

 

 


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