吉良 吉陰の奇妙な音楽日記

It's Only Music, But I Love It.

自らを曝け出したジェニーの初ソロ作


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『To Love is to Live』

Jehnny Beth

 

 

 

 私のブログも随分、久々のアップになりますが (苦笑)、実は私自身、東京都で緊急事態宣言が解除されてから忙しい日々を送っていました。このコロナ禍中で音楽好きの皆さんも大好きなアーティストのライヴに行けず、悶々とした日々を送っていらっしゃると思いますが (もちろん私もそうですけど…)、こういう状況になってくると音楽好きにとっての楽しみは、当然自分のお気に入りのアーティストのアルバムだと思います。このブログでこれから紹介する、SAVAGESのヴォーカリスト、ジェニー·ベスの初のソロ·アルバム『To Love is to Live』も私が待ちに待った期待のアルバムです。今月10日に発売した待望の初ソロ·アルバムを心待ちにしていたSAVAGESファンは私に限らず多いはずです。ヌードの彫像をモチーフにした、この力強さすら感じさせるアルバム·ジャケットには、ジェニーが裸の自分を曝け出したことと符合すると思います。このブログではジェニーがこのソロ·アルバムを制作することになった経緯から簡潔ではありますが、順に書き進めていきたいと思います。

 2017年にSAVAGESは活動休止を宣言しますが、ジェニー自身、『Adore Life』(2016年発表)制作時に、バンドのストイックな姿勢に窮屈さを感じていたそうです。その窮屈さを感じた要因と今回、初のソロ·アルバムを制作のきっかけとなったのが2016年1月に亡くなったデヴィッド・ボウイの死。彼女が敬愛するボウイの死は彼女に時間は無尽蔵にはないと自覚させ、(SAVAGESでは出来ない)自分のやりたい音楽をやる為にSAVAGESの活動休止とソロ·アルバムの制作を決意させました。アルバムを聴くとボウイの遺作となった『★』も、ソロ·アルバムのインスピレーション源となっていることに気付かれた方もいらっしゃるかもしれません。ちなみに、YouTubeではジェニーのボウイのトリビュート·ライヴの映像も幾つかアップされているので機会あったらご覧いただくのも宜しいかと思います。

 

 

 


https://youtu.be/NGZjBr3I9vs

 

 

 

 それから今回、このアルバムの共同プロデューサーとして参加している、ジェニーの音楽人生に欠かせない存在のジョニー·ホスタイルも“当然のように”サポートしています。ジョニー·ホスタイルはSAVAGESのファンの方には知っている方も少なくないはずですが、彼はSAVAGESの2枚のアルバムのプロデューサーでもあり、SAVAGES以前はフランスでジェニーとジョニーの二人でJohn & Jehnと言うオルタナ·デュオとして活動していました。John & Jehnは2006年に結成され、『John & Jehn』(2008年発表)と『Time for the Devil』(2010年発表)の2枚のアルバムを発表。フランス西部の町·ポワチエ出身のカミーユ·ベルトミエことジェニー·ベスと、ニコラ·コンジュことジョニー·ホスタイルは常に公私共に寄り添い、今回のソロ活動に関しても、二人でフランスに帰国し原点に立ち返ってアルバム制作に臨んでいます。

 更にフラッドとアティカス·ロスと言う強力な二人も共同プロデューサーとして名を連ねています。フラッドはNEW ORDERU2DEPECHE MODE等、数多くのアルバムを手掛けている名プロデューサーでおそらく、知らない方はまずいないはずです。そして、ジェニーが最初に声をかけたプロデューサーはアティカス·ロスでした。アティカス·ロスはトレント·レズナー(NINE INCH NAILS)のコラボレーターとして知られていますが、SAVAGESとは全く違うサウンド志向のアルバムを制作したかったジェニーにとって、アティカスはこのアルバム制作において重要な役割を果たしています。アルバム全体がインダストリアルなサウンドが中心になっている本作において、アティカスのプロデューサー起用はうってつけとも言えますが、ストリングスやピアノ、サンプリングまで導入して、デジタル·サウンドやヒップホップの手法を駆使した一辺倒なものにならないよう、アグレッシブさとアンビエントな要素を行き来したダイナミズムを感じさせるサウンドを構築することに成功しています。ビートもほぼ打ち込みで、SAVAGESとの違いを明確にするばかりか、極力、ロック的なサウンドにならないように意識しているようにも感じます(但し「I'm the Man」だけはSAVAGESやロックを感じさせますが)。

 アルバム収録曲の中では最もSAVAGESに近いアグレッシブなロック·ナンバーの「I'm the Man」は、自分がバイオレントな側面のある人間あることを肯定した内容の歌ですが、「A Place Above」でスポークンワード·ピースを披露している俳優のキリアン·マーフィーが出演するBBCのドラマ『Peaky Blinders』のシーズン5でも使われています。「Innocence」では都市の人間関係の希薄さ、他者への思いやりの欠落が歌われていますが、現在、世界中の都市でコロナ·ウィルスが蔓延してロックダウンや緊急事態宣言でますます、そうした状況を懸念させる状況なだけに響くものがあるかもしれません。「Flower」ではバイセクシャルのジェニーが女性との関係を歌ったものですが、この曲に関しても、どうしてもストイックなロック·バンドのSAVAGESでは出来ないテーマの曲かもしれません。The xxのロミー·マドリー·クロフトが参加する「French Countryside」はノスタルジックなラヴ·ソングですが、曲名通り、彼女の祖国のフランスに回帰するこの曲は、どこか英国のSAVAGESを離れて遠くへ行ってしまうような感覚すら思わせるものがあります。この曲は本作のハイライトの一つだと思いますが、SAVAGESにはない彼女の魅力を打ち出しつつ、もう我々はSAVAGESと永遠に会えないのかもと言う予感も感じさせてしまいます…。

 SAVAGESとは全く違うサウンドのアルバムではありますが、このアルバムの内容をじっくり考察しながら、ジェニーの様々な側面を楽しむのも、このアルバムの一つの楽しみ方だと思います。私もコロナ禍かつ連日の雨続きで憂鬱な気分になりがちですが、むしろ、ロックとかけ離れたジェニーのソロ·アルバムはこういう時に響きます。SAVAGESと違う方向性のアルバムではありますが、興味ある方には是非とも聴いていただきたい作品です。

 

 

 

 

 


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https://youtu.be/sUQCBCJkG5Y

 

 

 

 

 


https://youtu.be/XwOjI60EsTw

 

 

 

 

 


https://youtu.be/QYcVIPQiOpU

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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My 100 favourite albums


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 Facebook上で友達からバトン·リレー形式で始まった“影響うけたアルバム10枚企画”は(途中からはタグ付けしたバトン·リレーは取り止めています)、自分が影響を受けたアルバムをレビューや細かい説明抜きにして、一日一枚、アルバム·ジャケットを投稿する企画で、Facebookで投稿しながら、友達の皆さんとの絡みもあって非常に楽しませていただきました。こういうコロナ禍中で気持ちが滅入りがちな時に、SNS上とは言え、投稿したアルバムを通して大好きな音楽を語れるのは最高の気分転換にもなりますし、また音楽への情熱を失わずにいられる最高の企画でもあると思います。この企画はアルバム·ジャケットのみの投稿なので、時間のない時でも気軽に投稿出来るのは良いのですが、特にロック系のアルバム·ジャケットは現在のSNSの規約に引っ掛けるものも非常に多く、私自身もアルバム·ジャケットを投稿中に警告を受け、当然、投稿記事は削除。危うく(一定期間の)アカウント停止処分を喰らいそうになりました…。こうした例は一般人に限らず、芸能人やスポーツ選手等の有名人でも個人的なブログやSNSは規約に違反していると見做されれば削除されます。数日前には元プロレスラーの長州力さんがお孫さんとお風呂に入っている画像をブログに投稿しただけで削除されていますので、もしかしたら、赤ん坊が裸で泳いでいるアルバム·ジャケットで有名な、NIRVANAの『Nevermind』も削除の規約に引っ掛ける可能性はかなり高いと思います。

 私自身はFacebookでの“影響うけたアルバム10枚企画”で投稿しきれなかったアルバムを、FacebookInstagramで投稿したかったのですが、投稿したいアルバムの中には、SNSでの規約に引っ掛かる危険性の高いアルバムもあり、出来ればアルバム·ジャケットの写真を投稿せずに自分のお気に入りのアルバムを紹介出来ればと思い、このブログを使って、自分のお気に入りアルバムを挙げることにしました。

 今回のブログで私が挙げるお気に入りのアルバムは、なんと全部で100枚ですが(笑)このブログの企画で自ら課した基準は1バンド/1アーティストにつき1枚。アルバムはバンド/アーティストのアルファベット順に並べ、アルファベット順に冒頭の“THE”は含めません (例えば、THE CLASHならアルファベット順では“C”、THE WHOは“W”)。それから個人名の場合は例えば、David Bowieであればファースト·ネームの頭文字の“D”になります。前置きが長くなりましたが、以下(↓)が、私が今回の企画で選んだアルバムです。

 

(※)ちなみに、FacebookInstagramで行っていた前述の“影響うけたアルバム10枚企画”のアルバムも含んでいますが、削除処分を受けたことで止むを得ず、投稿アルバムを変更したBAUHAUSのアルバムは、従来、投稿する予定だった『In the Flat Field』に変更しています (FacebookInstagramでは『Mask』を投稿)。

 

 


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【My 100 favourite albums】

Album selected by Yoshikage Kira

 

『Thirteenth Step』a perfect Circle

Richard D. James Album』APHEX TWIN

『Funeral』ARCADE FIRE

『Community Music』ASIAN DUB FOUNDATION

『Confield』AUTECHRE

『In the Flat Field』BAUHAUS

『Prayers on Fire』THE BIRTHDAY PARTY

『Lifted or The Story is in the Soil, Keep your Ear to the Ground』BRIGHT EYES

『Future Days』CAN

『The Balcony』CATFISH AND THE BOTTLEMEN

『At Budokan』CHEAP TRICK

The ClashTHE CLASH

『Kick Up the Fire and Let the Flames Break Loose』THE COOPER TEMPLE CLAUSE

The CoralTHE CORAL

『Pornography』THE CURE

『Cuckoo』CURVE

『Machine Gun Etiquette』THE DAMNED

『1990』Daniel Johnston

『Aladdin Sane』David Bowie

『Violator』DEPECHE MODE

『Where You Been』DINOSAUR Jr.

『In the Dynamite Jet Saloon』THE DOGS D'AMOUR

『Eleven』ELEVEN

『either/or』Elliott Smith

『Fantastic Planet』FAILURE

『Danse Macabre』THE FAINT

『Angel Dust』FAITH NO MORE

『I am Kurious Oranj』THE FALL

『The Colour and The Shape』FOO FIGHTERS

『entertainment!』GANG OF FOUR

『The Golden D』Graham Coxon

『L.A.M.F.』HEARTBREAKERS

『Hold Your Horse is』HELLA

『primary colours』THE HORRORS

『Eat It 』HUMBLE PIE

『hurricane #1』HURRICANE #1

『Penance Soiree』THE ICARUS LINE

『Beyondless』ICEAGE

『100 broken windowsIDLEWILD

『Raw Power』Iggy & The Stooges

『Antics』INTERPOL

『The Gift』THE JAM

『Still Standing』Jason & The Scorchers

『Unknown Pleasures』JOY DIVISION

『ATTAK』KMFDM

『The Freedom Spark』Larrikin Love

『Houses of the Holy』LED ZEPPELIN

『up the bracket』THE LIBERTINES

『Real Life』MAGAZINE

『Generation Terrorists』MANIC STREET PREACHERS

『Attack of the Grey Latern』MANSUN

『Amputechture』THE MARS VOLTA

『Bullhead』MELVINS

『Frengers』MEW

『Play Don't Worry』Mick Ronson

『Don't Forget Who You are』Miles Kane

『Mr.Bungle』Mr.BUNGLE

Neu!NEU!

『Power, Corruption & Lies』NEW ORDER

『New York Dolls』NEW YORK DOLLS

『Everything Is』NINE BLACK ALPS

『In Utero』NIRVANA

『Definitely Maybe』OASIS

『Synchronicity』THE POLICE

『For How Much Longer Do We Tolerate The Mass Murder?』THE POP GROUP

『Screamadelica』PRIMAL SCREAM

『Pork Soda』PRIMUS

『Public Image』PUBLIC IMAGE LIMITED

Queen Ⅱ』QUEEN

『Drink Me』QUEENADREENA

『Songs for the Deaf』QUEENS OF THE STONE AGE

『KID A』RADIOHEAD

『Evil EmpireRAGE AGAINST THE MACHINE

RamonesRAMONES

『Rascalize』THE RASCALS

『Silence Yourself』SAVAGES

『Scott4』Scott Walker

『English Chamber Music』SELFISH CUNT

『Never Mind the Bollocks』SEX PISTOLS

『Takk...』Sigur Ros

『Hyaena』Siouxsie and The Banshees

The Queen is Dead』THE SMITHS

『Non-Stop Erotic Cabaret』SOFT CELL

『Daydream Nation』SONIC YOUTH

The SpecialsTHE SPECIALS

『Ladies and Gentlemen We are Floating in Space』Spiritualized

No More Heroes』THE STRANGLERS

『Coming Up』SUEDE

『The Madcap Laughs』Syd Barrett

『Marquee Moon』TELEVISION

『Anima』TOOL

『Little Earthquakes』Tori Amos

『Join the Dots』TOY

『The Slider』T.REX

『War Stories』UNKLE

『The Joshua Tree』U2

『Urban hymns』THE VERVE

『WAVVVES』WAVVES

『My Generation』THE WHO

『Flight of the Raven』WINNEBAGO DEAL

 

 

 

 

 ロック·アルバム中心ではありますが、パンク/ポスト·パンクからグランジ/オルタナ、テクノ/クラブ系音楽まで、出来るだけ幅広く選択してみました。100枚選んでみたものの、まだまだ選びたかったアルバムも多く、音楽好きにとっては好きなアルバムを挙げるとなると、100枚でも足りないのだと痛感しました…。現在、コロナ禍中でStay Home生活を強いられていますが、せっかくですから自分の好きなアルバムを何かしらの形で紹介し合って、新しい音楽と出会えれば良い刺激にもなると思います。しかし、この100枚選ぶ企画は選ぶだけなら簡単なんですが、こうしてブログに書き起こすのが、めちゃ時間かかって面倒くさいので、あまりオススメはしませんが…。

 

 

 

 

 


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90年代のグランジ/オルタナ·シーンに大きな影響力を持つパンク·バンド


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『3 CD BOX SET (Is This Real? - Youth of America - Over the Edge)』

WIPERS

 

 ここ数ケ月、このブログの始まりがコロナ·ネタでうんざりするかもしれませんが (苦笑)、皆さんも苦しみながらも、Stay Home生活にぼちぼち順応しながら、音楽も楽しまれているかもしれません。私もいい加減、Stay Home生活にうんざりしつつも何とか、音楽を少しづつ楽しめる精神状態になりつつあります。 

 …で、本日のブログの本題ですが、WIPERSの初期3作品(『Is This Real?』、『Youth of America』、『Over the Edge』)をコンパイルしたボックス·セット『3 CD BOX SET』について書きます。WIPERSといきなり言われても、なかなかピンと来ないかもしれませんが、NIRVANAやHOLE、MELVINS等、グランジ·シーンやオルタナ·シーンのバンドにカヴァーされているバンドと言われると分かりやすいかもしれません。特にNIRVANAがカヴァーした「Return of the Rat」と「D-7」で、WIPERSを知った方がほとんどではないかと思います。

 WIPERSは1977年に米オレゴン州·ポートランドで結成されたパンク·バンドで、結成当初のメンバーはグレッグ·セイジ(Vo/G)、デイヴ·コウパル(B)、サム·ヘンリー(Dr)ですが、グレッグ·セイジ以外のメンバーは流動的で実質的には、セイジ中心のバンドと言って良いと思います。1989年にバンドは一度解散しますが、グランジ勢、オルタナ勢の再評価もあってか、1993年に再結成し、1999年に解散しています。ちなみに1992年にはWIPERSのトリビュート·アルバム『Eight Songs for Greg Sage and The Wipers』(Eight Songs for Greg Sage and the Wipers - Wikipedia)もリリースされ、更に2006年には、80年代のポートランドの音楽シーンを取り上げた映像作品『Nortwest Passage : Birth of Portland's DIY Culture』がリリースされたことで、よりWIPERSの再評価が高まっています。ハッキリ言って、NIRVANAがカヴァーするまで、ほとんど無名に近いバンドの為、今までオリジナル·アルバムを聴ける機会もほとんど無かったわけですが、このボックス·セットは、ほぼ伝説の域に近い、このバンドの音楽を知るには最高のアイテムと言えると思います。ちなみにこのボックス·セットは、初期3作品をリマスタリングして、2001年にZeno Recordsからリリースされたものです。このブログでは、その初期3枚のアルバムを(いつも通りの駄文ではありますが)順番に取り上げたいと思います。

 

 


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『Is This Real?』(1980年発表)

 

 1980年にPark Avenue Recordsからリリースされた、WIPERSの記念すべきデビュー·アルバムで、プロデュースはグレッグ·セイジが担当しています。このアルバムには前述のNIRVANAがカヴァーした「Return of the Rat」と「D-7」も収録されていますが、NIRVANAだけでなく、「Mystery」をEAGULLS、JEFF the Brotherhood、SHELLSHAGが、「Up Front」をPOISON IDEA、コリン·タッカー(SLEATER-KINNEY)が、「Potencial Suicide」をNAPALM BEACHが、そして、「Wait A Minute」をMY VITRIOLがそれぞれ、カヴァーしています。無名のパンク·バンドが、これだけ多くのバンド/アーティストにカヴァーされているのは極めて稀で、NIRVANAの影響も大きいとは言え、それだけ、このアルバムの楽曲の質も高く、ポートランドのパンク·シーンのみならず、米国のグランジ/オルタナ·シーンに影響を最も与えた最重要アルバムの一枚と言って良いと思います。

 「Return of the Rat」で始まる、レコードで言うA面に当たる前半の曲は、2分前後のファーストな曲が多いですが、カヴァーしているバンドが多いキャッチーな「Mystery」が象徴するように、楽曲の質は極めて高いです。しかし、7曲目の「D-7」から始まる“B面”がダークで陰影のあるサウンドで、ストレートに力押しして来る“A面”のWIPERSとは違った側面を見せ、このダーク·サイドのWIPERSこそが後のWIPERSの姿と言えると思います。最もストレートなパンク·サウンドも、陰影のあるダークなサウンドの楽曲も網羅しているところが本作の魅力とも言え、また、後のグランジ/オルタナ·シーンのバンドを惹きつけて止まない部分なのだと思います。ちなみに、本作には11曲ものボーナス·トラックがあり、3曲は1978〜1979年にレコーディングされながら、アルバム未収録になったもの。そして、4曲のデモ·トラックに、1980年にリリースされたEP『Alien Boys』の4曲の楽曲もそれぞれ収録されています。

 

 


https://youtu.be/47_qIoXE-Lw

 

 


https://youtu.be/MRa5BWOOGZM

 

 

 

 


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『Youth of America』(1981年発表)

 

 1981年にPark Avenue Recordsからリリースされた、WIPERSの2ndアルバムで、プロデュースもデビュー·アルバム同様、グレッグ·セイジが担当していますが、ドラマーが早くもサム·ヘンリーからブラッド·ナイッシュに代わっています。この2ndアルバムのタイトル曲「Youth of America」はMELVINSがカヴァーしていますが、10分を超える、このタイトル曲を中心に、6分超の「When It's Over」と長尺ナンバーも登場し、「Can This Be」のようにデビュー·アルバムで聴けるストレートなパンク·ソングもあるものの、グレッグ·セイジがヴァリトン·ヴォイスで歌う異色のナンバー「Talking Too Long」を筆頭に、ダークで陰影のあるサウンドがアルバムを支配しています。デビュー·アルバムの“B面”のサウンドを更に押し進めて昇華させた形が、WIPERSを一塊のパンク·バンドから、後々のグランジ/オルタナ·シーンへの影響力を感じさせる唯一無二のバンドへと進化へと繋がったと言えると思います。デビュー·アルバムも、もちろん素晴らしい出来なのですが、後の影響力のあるWIPERSの真骨頂はむしろ、このアルバムのオリジナリティのあるサウンドにあるのかもしれません。ちなみに、このアルバムにもアルバム未収録のボーナス·トラックが5曲収録されています。

 

 


https://youtu.be/YaUzYISKKAI

 

 

 


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『Over the Edge』(1983年発表)

 

 1983年にリリースされた3rdアルバムで、グレッグ·セイジが立ち上げた自主レーベル、Trap RecordsとBrain Eater Recordsからリリースされています。このアルバムのタイトル曲「Over the Edge」は、HOLEがカヴァーしている曲でもありますが、このタイトル曲はHOLEの他に、MONO MEN、BORED!、RED FANGもカヴァーしている人気の高い曲です。このアルバムも、『Youth of America』同様にどこか陰影のあるダークな側面を感じさせる楽曲もありますが、「Youth of America」や「When It's Over」のような長尺曲はなく、「Over the Edge」や「Romeo」のようにアグレッシブなパンク·ナンバーが最も印象に残るため、前作のような違和感はないと思います。本作は力強さとダークな側面を理想的な形で共存させたアルバムと言っても良いと思います。アルバムのインパクトと言う点では、前2作より少し劣るかもしれませんが、各楽曲の質は極めて高く、完成度も高い作品です。ちなみに本作にもボーナス·トラックが7曲収録されています。それから、添付映像として『Nortwest Passage : Birth of Portland's DIY Culture』での、WIPERSのライヴ映像を貼りましたので(↓)、生のWIPERSのライヴをご覧いただけたらと思います。

 

 

 


https://youtu.be/d4WX_PGlqG4

 

 

 


https://youtu.be/e0jWG0ZY8hI

 

 

 

 ちなみにWIPERSは1999年発表の『Power in One』を最後に、オリジナル·スタジオ·アルバムを9枚リリースしていますが、とりあえず、この『3 CD BOX SET』を聴けば、WIPERSの魅力は充分に伝わると思います。この3枚が気に入って、更にアルバムを集めたいのであれば、それはそれで私がこのボックス·セットを紹介した甲斐があったと言うものです(笑)私もコロナ禍で一時期はロックどころか音楽を聴く気力すら失うところでしたが、徐々にではありますが、素直に音楽に向き合えるようになりました。皆さんもロックに限らず、音楽を聴いて、少しづつでも良いので英気を養ってください。

 

 

 


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そう言えば、このバンドもコロナ禍で来日中止になってます…(涙)


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『Deceiver』

DIIV

 

 今年はコロナ禍で数多くのバンドのライヴが中止·延期になっていますが、今日、このブログで書きます、DIIVも来日中止になったバンドの一つです。DIIVは4月13日(月)と14日(火)に来日公演を大阪と東京で行う予定でしたが、このバンドのライヴを楽しみにされていた方は、さぞ無念だったことでしょう…。…で、今回は、そのDIIVが昨年10月にリリースした3rdアルバム『Deceiver』について書きます。私自身、実は昨年末に書いたブログの『Best Album Of The Year 2019』(↓下部リンク)の10位に選出させていただいていますが、コロナ禍中になってからは、数日前にブログにも書かせていただいたエリオット·スミスの『either/or』と並んで、個人的にヘヴィー·ローテーションのアルバムになっています。このアルバムが何故、私にとって、現在のコロナ禍の中で重要な作品となっているのかは、このブログをお読みになって判断していただければと思います…。

 

 

Best Album Of The Year 2019 - 吉良 吉陰の奇妙な音楽日記

 

 

 

 DIIVは、2011年にBEACH FOSSILSのギタリスト、ザカリー·コール·スミスのソロ·プロジェクトとしてスタートしたもので、当時のバンド名は“Dive”でした。Diveはマック·デ·マルコや、WILD NOTHING、DUM DUM GIRLS等が在籍していることで知られている、Captured Tracksと契約し、「Sometime」、「Human」、「Geist」の3枚のシングルをリリース。2012年5月にベルギーに同名(Dive)のグループが存在していた為に、バンド名を現在のDIIVに変更。2012年6月にはデビュー·アルバム『Oshin』をリリースし、有名インディー·ロック·メディアのピッチフォークが同アルバムを“Best New Music”に選出しました。その後、2013年には『FUJI ROCK FESTIVAL '13』にも出演し、日本でも人気が出るようになり、更にザカリー·コール·スミスもイヴ·サンローランのキャンペーンのモデルやファションショーのモデルも務めることで、バンドの知名度も上がっていきました。2016年には2ndアルバム『Is the is Are』をリリースしますが、ザカリー·コール·スミスが薬物依存の治療の為に、6ヶ月の入院をしたことでバンドの活動及び、勢いも止まってしまいました…。

 そして退院後、ベーシストのコリン·コールフィールドのデモ音源を元に、バンド全体としてアルバム制作に取り組んだのが本作の『Deceiver』だそうです。…とは言っても実際にはザカリー·コール·スミスやコリン·コールフィールドのみならず、バンド全員で持ち寄った曲で構成されているそうで、今まで、ザカリー·コール·スミスのソロ·プロジェクト的印象の強かったDIIVとは違った、バンド全員で制作された作品と言えると思います。

共同プロデューサーとして、MY BLOODY VALENTINENINE INCH NAILSのエンジニアを務めた経験のあるソニー·ディペリを迎えていますが、今までのリバーブのかかったドリーミーなサウンドとは打って変わって、ファズのかかったヘヴィーなサウンドが印象に残ります。今までは同じギターのサウンドを2〜3本重ねていたところを、クリアなギターを1本だけとって無駄に重くし過ぎないようにしたりと、サウンド面での変化も充分に感じますし、また、アルバム制作までに時間を取ったことでバンド内でのコミュニケーションも充分に取れたようで、それがメンバーの成長と共にバンドをより飛躍させることにも繋がりました。1曲目の「Horsehead」から重く、陰鬱な雰囲気が漂ってきますが、しかし、だからと言って決して、DIIV特有のドリーミーな楽曲が無くなった訳ではなく、2曲目の「Like Before You Were Born」、3曲目の「Skin Game」を始め、今までのDIIV特有の美しいメロディーは健在です。しかし、どこか重苦しい雰囲気がアルバム全体に漂っているのは確かです…。ザカリー·コール·スミス曰く、このアルバムのテーマとして「自己責任」と「欺瞞」を挙げています。ちなみに、このブログにも貼っている「Blankenship」(↓)は企業による環境破壊と地球規模での環境の変化をモチーフにしていて、ある意味、その地球の環境破壊も「自己責任」と捉えて良いと思います。更にアルバム·ラストを飾る「Acheron」はスロウコアを思わせる、重くミニマムなナンバーですが、この曲に「shikata ga nai(仕方がない)」と言う日本語の歌詞がありますが、これはジョン·ハーシーの著書『HIROSHIMA』(見出しはただ一言「HIROSHIMA」 米記者が1946年に書いた恐怖 - BBCニュース)で、原爆被爆者が発したとされる言葉で、この曲の内容は神について言及しているスピリチュアルな内容の歌ですが、同時に神を信仰したくても「あんな悲劇を起こす神を、どう信仰すれば良いんだ」という意味の歌でもあります。アルバム全体は重苦しい雰囲気に包まれているものの、バンド全体で前向きに生きようとする意思の強さも感じるアルバムで、絶望の中でも強く生きていく意思表示にも捉えることが出来ると思います。

 本作はもちろん、コロナ禍前に制作されたアルバムではありますが、重苦しい雰囲気の中で前向きに進もうとするバンドの姿勢と、現在、世界中の人々がコロナ禍の中で強く生きようとする姿勢がリンクしている気がします。皆さんも現在は辛い中を強く生き抜いている最中ですが、少しでも余裕のある時は素晴らしい音楽に身を寄せて、いつかは来るかもしれないコロナの終息に向けて、頑張って生きましょう。

 

 

 

 

 

 


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https://youtu.be/3ohbZraF1aQ

 

 

 

 

 


https://youtu.be/YWk1v5YSGUY

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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私がコロナ禍中で、一番聴いているのが実はこのアルバム…


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『either/or』

Elliott Smith

 

 

 いよいよ、我が国でも7都道府県で“緊急事態宣言”が発令され、ライヴはおろか音楽どころではない状況になってしまいました…。今年、『FUJI ROCK FESTIVAL 2020』、『SUPERSONIC』のフェスの出演アーティストもそれぞれ発表になっていますが、正直、開催は厳しいと言わざるをえません。満足に外出も出来ない状況の中、皆さんも音楽は引きこもって聴くしかなくなっているはずですが、こんな状況下ですから、下手すれば音楽を聴く気力すら失くしているかもしれません…。でも、こんな状況下だからこそ響く音楽と言うのもあると思います。益々、コロナ禍が酷くなっていく中で、私が一番良く聴いているのは、これから、このブログで書かせていただく、エリオット·スミスの『either/or』です。

 エリオット·スミスは現在でこそ、高い評価を受けているシンガーソングライターですが、彼が活動していた90年代から00年代初めの頃は決して知名度は高くなかったと思います。エリオット·スミスが注目され始めたのは、1997年の映画『グッド·ウィル·バンディング』に提供した「Miss Misery」がアカデミー賞歌曲賞にノミネートされ、1998年のアカデミー賞授賞式の会場で「Miss Misery」を演奏した時でした。その後、メジャーレーベルのDreamWorks Recordsに移籍し、1998年に『XO』、2000年に『Figure 8』をそれぞれリリースするものの、常にドラッグやアルコール問題を抱え、常に鬱状態。そして自殺志願まで口にする等、精神的にかなり危険な状態に置かれ、『Figure 8』もベックやPEARL JAMのメンバー等に高く評価されていましたが、メジャー·レーベル移籍後のアルバムが決して高いチャート·アクションを見せることはありませんでした。そんな状態の中、エリオット·スミスは次のアルバムの制作に取り組みますが、2003年10月21日にロサンゼルスの自宅で恋人のジェニファー·チバと口論後にバスルームに閉じこもった後、キッチン·ナイフで負った2箇所の傷が原因で謎の死を遂げます。そして、死後に彼が取り組んで制作してきた音源を元にリリースしたアルバム『From A Basement on the Hill』(2004年発表)が、全米アルバム·チャート19位という高いチャート·アクションを記録。更に2007年には未発表曲、デモ音源、シングルB面曲で構成された編集盤『New Moon』も全米アルバム·チャート24位を記録し、死後に急速に高い評価を受けるようになったのです。

 エリオット·スミスは、1991年に大学の級友のヒート·ガストと共にオルタナ·バンド、HEATMIZERを結成。そのHEATMIZERの活動中の1994年にインディー·レーベルのCavity Seachからソロ·デビュー·アルバム『Roman Candle』をリリース。引き続き、1995年にはBIKINI KILLやSLEATER-KINNEY、HUGGY BEAR等、ライオット·ガール·バンドのアルバムをリリースしてきたことで有名なインディー·レーベル、Kill Rock Starsと契約し、2ndソロ·アルバム『Elliott Smith』をリリース。並行して活動を続けてきたHEATMIZERが1996年に解散。ソロ活動に専念出来るようになった環境で、Kill Rock Starsから1997年にリリースした3rdアルバムが本作の『either/or』です。

 本作の『either/or』はエリオット·スミスの死後、代表作として評価されている作品です。アルバム·タイトルの『either/or』は、デンマークの哲学者、キェルケゴールの著書『あれか、これか : 人生の断片』(あれか、これか - Wikipedia)の英語名(デンマーク語では『Enten-Eller』)で、「美的生活(いわゆる享楽に身を委せた生活)の行き着く先は絶望に他ならない」という内容のキェルケゴール哲学書から取られたものです。本作はスミス自身の自宅や、スミスと交流の深いQUASIのメンバーだったジョアンナ·ボルムの自宅等、数カ所で録音され、後に『XO』を共同で手掛ける、トム·ロスロックとロブ·シュナフもスミスと共に共同プロデューサーとして名を連ねています。1996年にジェム·コーエンがスミスにフォーカスを当てたショート·フィルム「Lucky Three」を撮影し、そのフィルムで演奏された2曲も本作に収録されました (その内の1曲「Between the Bars」の演奏映像も、このブログに貼っています ↓)。ギター、ベース、ドラム、キーボードは全て、スミス自身で演奏していますが、HEATMIZERのようなロックではなく、スミスがソロ·アルバム前2作で演奏してきたのと同様に内省的なシンガーソングライター·アルバムに仕上がっています。セルフ·タイトルの前作がドラッグやアルコール中毒を想起させる内容だったことを深く反省したスミスは、そうしたネガティブな内容の歌詞を極力排し、結果的に温かみのある前向きな作品に仕上がっています。そもそも、生まれてすぐに両親が離婚し、継父の虐待を受けて育ったスミスは、常にトラウマを抱え、そんな鬱状態の彼の歌詞を行間から解読するのは至難の業とも言えますが、逆に常に傷付いてきた彼の繊細な感性と、THE BEATLESから影響を受けた高度なソングライティング能力の高さはどのアルバムでも垣間見えることが出来ます。アルバムの完成度こそ、メジャー·レーベル移籍後の『XO』や『Figure 8』の方が上かもしれませんが、繊細過ぎるスミスのヴォーカルは、むしろ、本作のようなシンプルなサウンドの方が際立つのは確かです。愚直な例えで言えばレノン/マッカートニー·クラスのソングライティング能力を持ったジョージ·ハリスンと言っても良いかもしれません。この繊細過ぎるスミスが最も高いソングライティング能力を活かし、アーティストとして、最も脂の乗り切った状態で制作されたのが本作と言えるでしょう。オープニング·トラックの「Speed Trials」の質の高さから余裕で名盤の予感を感じさせますが、脆さを感じさせながらもハーモニーがあまりにも美しい「Alamonda Street」を聴いた時点で、次の曲が聴きたくなり、更に質の高い曲が続くことで中毒性も高いアルバムです。「Angeles」では複雑なフィンガー·ピッキングを披露し、ギタリストとしても評価の高かったスミスの真骨頂が発揮されていますし、「Cupid's Trick」や「Rose Parade」のようなロック色の濃いナンバーでは、HEATMIZERでは決して評価されることのなかった、ロッカーとしての際立った魅力も感じさせてくれます。そしてラストを飾る「Say Yes」は苦悩を感じさせつつも希望の光が見える、スミス屈指の名曲で本当に深い余韻を残しながら、アルバムは惜しくも終わっていきます…。

 スミスが活動していた90年代の音楽シーンは、NIRVANA登場以降にグランジが席巻し、その後にNINE INCH NAILSKorn等のヘヴィーなマッチョイズムなバンドが流行の最先端にいた時代だったので、繊細過ぎるスミスにとっては不遇な時代でしたが、そういった時代が過ぎ去った後に、やっとスミスの魅力を評価出来るようになったのは自然の流れだったのかもしれません。

 同じ90年代に活躍したジェフ·バックリィのようにアルバム1枚残しただけで亡くなり、彼もスミス同様に伝説的なシンガーソングライターでしたが、スミスはジェフ·バックリィのように決して神々しい存在ではありませんでした。また、カート·コバーンが愛して止まないダニエル·ジョンストンのようにオルタナ·ファンのカリスマになることもありませんでしたが、エリオット·スミスは現在でも世界中の音楽ファンの心に残っています。コロナ禍中の現在だからこそ、傷だらけの天使とも言えるエリオット·スミスは、現在の私の心に大きく響いたのだと思います。いつ終息するかも分からないコロナ·ウイルスの猛威の中で、本作は疲れ切った私の心を微力ながらも支えてくれるアルバムです…。

 

 

 

 

 

 

 

 


https://youtu.be/p4cJv6s_Yjw

 

 

 


https://youtu.be/FMSU4QDbdew

 

 

 


https://youtu.be/8bxmk09lCzk

 

 

 


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【コラム】我々、音楽ファンがコロナ騒動に立ち向かうには、どうしたら良いのか?


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 3月始めに書いた、前回のTHE FAINTのアルバムについてのブログでも、既にコロナ·ウイルス騒動については触れてはいますが、その時に比べて収束どころか、世界中の状況はかなり酷くなっていくばかりです。既に世界中で多くのコロナ·ウイルスによる数多くの感染者·死亡者が出ています。経済面でも米国のFRB金利を1%引き下げる対策を打ち出しましたが、混乱を避けることは全く出来ず、これからリーマンショック以上の大恐慌が訪れるのも時間の問題となっています。そして、日本の音楽ファンが最も楽しみにしている『FUJI ROCK FESTIVAL 2020』も、8月21日から始まりますが、無事、開催されるかどうか、現在のところ微妙な状況です…。既に『SXSW 2020』と『Glastonbury Festival』は中止、『Coachella Valley Music & Arts Festival』も延期等、多くの海外フェスが中止·延期を決めているだけに、フジロックの開催も正直、厳しいと言わざるを得ません。今回のブログはミュージシャンの厳しい状況、音楽界が置かれている状況を踏まえつつ、これから我々、音楽ファンが出来ることは何なのか?を問うものになっています。

 まず、コチラ(↓)のニュース記事のリンクを見てもらいたいと思います。この記事はコロナ禍の中、ライヴを決行した東京事変に纏るネット上での騒動、ミュージシャンがライヴを中止にした場合の損失まで、非常に現在のミュージシャンの置かれている状況が分かりやすいものになっています。

 


ライブ決行で「ディスり合い」、はけ口に使われた「わかりやすいもの」 2千人ライブで1億円が消える現実(withnews) - Yahoo!ニュース

 

 

 それから、海外のインディー·ミュージシャンの現実もかなり厳しいようです…。コチラのリンク(↓)もご覧いただけたらと思います。ちなみに下記の『Rolling Stone Japan』の記事のリンクは、私のFacebookでもシェアしているので、お読みになった方もいらっしゃるかもしれません。

 


新型コロナ、多くのミュージシャンの暮らしが崩壊する危険性 | Rolling Stone Japan(ローリングストーン ジャパン)

 

 上記の2つのリンク記事(↑)をお読みいただいただけでも、充分にコロナ渦中のミュージシャンの現実がご理解いただけたと思います。では、ライヴに行けない我々が少しでも、好きなミュージシャンに貢献出来ることはないのか?と思われる方も少なくないはずです。また、ミュージシャンを手助けする案も下記の『Rolling Stone Japan』の記事のリンク(↓)で提案されています。

 


「コロナ危機」に苦しむミュージシャンを支援する9つの方法 | Rolling Stone Japan(ローリングストーン ジャパン)

 

 ライヴを観ることが出来ない我々が出来ることは、コロナ渦中のライヴを観られない期間に出来るだけの支援をして、世界中が正常な状態に戻った時にファンが健全にライヴを楽しめる状況にすることです。一番、シンプルな支援方法は、そのアーティストのアルバムやグッズを購入することでしょう。もっとも、好きなアーティストのアルバムを買わないファンなどいないでしょうが (苦笑)、そのアーティストのアルバムでも、音楽性が変わったとかで聴かなくなってしまい、売ってしまったアルバムを再購入するのも一つの手かもしれません。アーティストのグッズなんかは、ライヴに行く度に購入する方もいらっしゃいますが、普段、ほとんど購入しない方は、こういう厳しい状況の中で購入しておく方が、少しはアーティストの手助けになるはずです。

 アーティスト側にも出来ることは決して少なくないはずです。何かしらの形で募金を募るのも悪くないですが、こういう機会にコロナ渦中で経済的に苦しんでいるアーティストを手助けするためのレコードを、経済的に余裕のあるアーティストがリリースするのも一つの手ですし、そのレコードをコロナのワクチンの研究費用のために発売する手だってあるはずです。イギリスの“BAND AID”や米国の“USA for Africa”のように80年代の半ばにアフリカの貧しい人々を救う救済レコードが盛んにリリースされていたのを記憶している方もいらっしゃると思いますが、こうした企画を大物アーティストがライヴ配信して、レコードでリリースして、音楽界を救う手立てにする方法だって、決して実現不可能ではないはずです。いずれにせよ、ウイルスのワクチンが出来るまでは、音楽界にとって厳しい状況が続くわけですから、ミュージシャン側、そして我々、音楽ファンが出来ることで協力し合って、現在の苦しい状況を乗り越えるしかありません。

 このまま何もしないで厳しい状況を時の経つまま待っていれば、家庭を持つ音楽ファンの方は仕事や家庭に忙殺され、音楽から離れてしまいますし、気が移りやすい若い音楽ファンも音楽以外のことに関心が移ってしまいます。コロナ騒動が起きる前も、レコードの売上が落ち、音楽離れが顕著な状況で、それをアーティスト側がライヴ活動で補填してきた状況でしたが、現在はそれすら出来ない、本当に生死に関わる非常事態です。ただ闇雲に延期·中止をするのではなく、多少、客足がなくても対策を万全にしてライヴを行う方法を模索する必要もあるかもしれません。現在、会社員の方でも朝、体温をはかって申告してから仕事をする会社もあるはずですが、ライヴ会場で自分で体温計を持ち込んでもらって、体温計を見せてからじゃないと入場出来ないとかも案としては悪くないはずです。無論、体温の高い方の入場はお断り、体温計を持参してない方の入場もお断りという条件ですが。椅子席のライヴなら、当然、一つ席を開けてのライヴにする方が良いでしょう。これは既に映画館では実践されています。ただ、人が密集しやすいオールスタンディングのライヴは、なかなか色々な課題が多いと思います。いずれにせよ、ただ延期·中止では対策が見えてこないので、対策を明確に提示して、安全性が確認出来る方法が見えれば、今後にも繋がるはずです。

 私自身も4月にTOY、LARKIN POE、6月にMEWのライヴに行く予定ですが、この3アーティストのライヴは現在の時点では中止になっていません。私ももちろん、マスクをして万全な対策を取りますが、プロモーター側、ミュージシャン側も万全な対策をすれば、それなりに楽しめる状況にはなるのではないでしょうか? もちろん、中止や延期は覚悟はしていますが、だからと言って何も策を講じず、延期·中止を繰り返していけば、これから音楽関係者が生きていく術は何も見えてきません。これからも厳しい状況が続きますが、将来、本当の意味で楽しめる時が来るまで、皆で助け合って、この状況を乗り越えていきましょう…。

オマハ産ディスコ·パンクの名盤


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『Danse Macabre : Deluxe Edition』

THE FAINT

 

 

 

 

 

 

 

 このブログを書いている2020年3月3日時点で、新型コロナウィルスの猛威の影響で、既に洋邦数多くのコンサートが延期·中止になっています…。こんな悲惨な状況はおそらく、2011年3月11日直後、…いや、もしかしたら、それ以上かもしれません。もちろん普段、コンサートに何回も行かれる方にとっても大きな痛手ですが、それ以上にコンサートを主催する音楽プロモーションへの影響は相当大きく、特にこれから先、洋楽アーティストの招聘は益々、困難になってくる可能性もあります。私自身が参加予定の来日公演も既に、THE PIXIESNEW ORDERは来日延期、THE NATIONALは来日中止をそれぞれ発表。このブログに書いた、BRIGHT EYESとTOYの来日もかなり危うい状況だと思います。しかし、我々、音楽ファンはコンサートに行くことは困難になってもレコードやCD、或いはダウンロード等で音楽に触れることだけは可能です。こんな困難な時に自分を元気にしてくれるアルバム、涙が出るほど感激出来るアルバムを聴いて、ほんの少しでも乗り切ることも大切です。本日のブログは、私が最近のこの状況でよく聴いている“自分を少しでも元気にしてくれる”アルバムについて書いてます。

 

 THE FAINTは、1995年に米ネブラスカ州オマハで結成されたバンドで、『SUMMER SONIC 2004』にも参加経験のあるディスコ·パンク·バンドと言えば、もしかしたら覚えていらっしゃる方もいるかもしれませんが、BRIGHT EYESの活躍で一躍、有名になったインディー·レーベル、SADDLE CREEKを代表するバンドと言った方が、より分かりやすいかもしれません。THE FAINTは1995年のデビュー当初は、NORMAN BAILERと言うバンド名で活動し、1995年にデビュー·アルバム『Sine Sierra』をリリースし、このNORMAN BAILERのデビュー·アルバムにはBRIGHT EYESのコナー·オバーストも参加しています。そもそも、THE FAINTの出身地、ネブラスカ州オマハBRIGHT EYESの出身地でもあり、SADDLE CREEKレーベルの拠点でもある場所で、THE FAINTオマハを拠点にするBRIGHT EYESと並ぶ、SADDLE CREEKを代表する重要なバンドとして位置づけされているのです。バンド名をTHE FAINTに改名して、THE FAINTとしてのデビュー·アルバム『Media』を1998年にリリース。早くも翌年の1999年に、2ndアルバム『Blank-Wave Arcade』をリリースすると、このアルバムが音楽メディアに高く評価され、更に2001年に3rdアルバム『Danse Macabre』をリリースすると、更に評価が高まり、この3rdアルバムは“ディスコ·パンクの名盤”として知られるようになり、3rdアルバムの高い評価が、後の日本での『SUMMER SONIC 2004』の参加へと繋がっていきました。この“ディスコ·パンクの名盤”として誉れ高い、3rdアルバムをリマスターし、更にボーナスCDとDVDをプラスして、2012年に『Danse Macabre : Deluxe Edition』としてリリースしたのが本作です。

 80年代のニューウェーヴを基調にしながらも、決して古臭いレトロ主義一辺倒に陥らずに、思わず理屈抜きに身体が踊ってしまうフロア系のビートに昇華しつつ、ポストパンクのクールな質感を見事にブレンドした、クラブ系音楽好きもインディー·ロック好きも理屈抜きに楽しめる一枚ですが、各楽曲の質も高く、単に踊らせるだけではない、20年近く経った、今聴いても充分に“ディスコ·パンクの名盤”として通じる一枚です。もちろん、バンドのサウンドを聴いて、70年代〜80年代を知るオールド·ロック·ファンの方はDEPECHE MODEやSOFT CELL、NEW ORDER、或いはMAGAZINE辺りを連想するのかもしれませんが、このビートそのものの高揚感は、2000年代以降の!!! (Chk Chk Chk)やRAPTUREにむしろ通じていたりもして、不思議と懐古主義的に聴こえないところも、このバンドのセンス故なのかな?と思います。ちなみにこのアルバムのプロデューサーはバンド自身とBRIGHT EYESのマイク·モーギス。モーギスはBRIGHT EYESのメンバーとしてよりも、むしろSADDLE CREEKのプロデューサーやエンジニアとしての活動が本職で、BRIGHT EYESの多彩な音楽性を支えている人物でもあります。このモーギスの影での貢献が大きいのはもちろんですが、この3rdアルバム·リリース前に、デス·メタル·バンドのLEADからギタリストのDaposeが加入し、バンドのサウンドにダイナミズムが増したのも大きな変化だと思います。いずれにせよ、70年代〜80年代を通過していない世代にとっては、クラブ·ユースにも耐えうる素晴らしい作品として聴けるアルバムと断言しても良いと思います。前述にも挙げた、!!!やRAPTURE等のダンス·ロック系サウンドが好きな方は必携の一枚ですね。

 それから、この“Deluxe Edition”盤のもう一枚のボーナス·トラック盤も実は聴きどころで、私は3rdアルバムを持っているにも関わらず、このボーナス·トラック聴きたさに“Deluxe Edition”盤を購入したようなものです(笑)まず2曲目のSONIC YOUTHの『Goo』に収録されているカヴァー曲「Mote」が収録されていますが、このカヴァー曲を見事にデジタル·アレンジして、決して期待を裏切らない出来になっています。このカヴァーのセンスの素晴らしさが、このバンドが決してNW懐古主義ではないことを証明していると思います。それから、SADDLE CREEK支持者、BRIGHT EYESファンにとって嬉しいのは、3曲目の「Dust」と4曲目の「Falling Out of Love at This Volume」での、BRIGHT EYESとの共演で、この2曲もボーナス·トラック盤の売りです。コチラはBRIGHT EYESに合わせることなく、THE FAINT節全開ですが(笑)、コナー·オバーストとはデビュー当初から交友のある関係なので、違和感なく楽しんで聴けます。ちなみに、もう一枚のDVDはMVやライヴ映像、アーカイブ·フッテージ等が収録されていますが、コチラはバンドに興味ある方には楽しめるかな?程度の作品なので、一回観れば充分かな?ぐらいのものかもしれません (苦笑)。でも、この3rdアルバムに興味を持った方は、“お得な”ボーナス·トラック盤の付いた、このDeluxe Edition盤の購入をオススメしたいです。

 このブログの冒頭がいきなり暗い内容のものになってしまいましたが (苦笑)、ライヴ行く行かないに限らず、音楽を楽しむ余裕だけは持ちたいものです。私もこのアルバムを再度、楽しむきっかけになったのは、来日が決定している、 (もちろん、SADDLE CREEK繋がりではありますが)BRIGHT EYESのおかげです 。今年に関してはライヴに行ったりは、新型コロナ·ウイルスの影響で、それほど出来ないかもしれませんが、それなりの音楽生活をおくりたいと思っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

youtu.be

 

 

 

 

 

 

 

 

 


The Faint - Glass Danse

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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