吉良 吉陰の奇妙な音楽日記

It's Only Music, But I Love It.

自らを曝け出したジェニーの初ソロ作


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『To Love is to Live』

Jehnny Beth

 

 

 

 私のブログも随分、久々のアップになりますが (苦笑)、実は私自身、東京都で緊急事態宣言が解除されてから忙しい日々を送っていました。このコロナ禍中で音楽好きの皆さんも大好きなアーティストのライヴに行けず、悶々とした日々を送っていらっしゃると思いますが (もちろん私もそうですけど…)、こういう状況になってくると音楽好きにとっての楽しみは、当然自分のお気に入りのアーティストのアルバムだと思います。このブログでこれから紹介する、SAVAGESのヴォーカリスト、ジェニー·ベスの初のソロ·アルバム『To Love is to Live』も私が待ちに待った期待のアルバムです。今月10日に発売した待望の初ソロ·アルバムを心待ちにしていたSAVAGESファンは私に限らず多いはずです。ヌードの彫像をモチーフにした、この力強さすら感じさせるアルバム·ジャケットには、ジェニーが裸の自分を曝け出したことと符合すると思います。このブログではジェニーがこのソロ·アルバムを制作することになった経緯から簡潔ではありますが、順に書き進めていきたいと思います。

 2017年にSAVAGESは活動休止を宣言しますが、ジェニー自身、『Adore Life』(2016年発表)制作時に、バンドのストイックな姿勢に窮屈さを感じていたそうです。その窮屈さを感じた要因と今回、初のソロ·アルバムを制作のきっかけとなったのが2016年1月に亡くなったデヴィッド・ボウイの死。彼女が敬愛するボウイの死は彼女に時間は無尽蔵にはないと自覚させ、(SAVAGESでは出来ない)自分のやりたい音楽をやる為にSAVAGESの活動休止とソロ·アルバムの制作を決意させました。アルバムを聴くとボウイの遺作となった『★』も、ソロ·アルバムのインスピレーション源となっていることに気付かれた方もいらっしゃるかもしれません。ちなみに、YouTubeではジェニーのボウイのトリビュート·ライヴの映像も幾つかアップされているので機会あったらご覧いただくのも宜しいかと思います。

 

 

 


https://youtu.be/NGZjBr3I9vs

 

 

 

 それから今回、このアルバムの共同プロデューサーとして参加している、ジェニーの音楽人生に欠かせない存在のジョニー·ホスタイルも“当然のように”サポートしています。ジョニー·ホスタイルはSAVAGESのファンの方には知っている方も少なくないはずですが、彼はSAVAGESの2枚のアルバムのプロデューサーでもあり、SAVAGES以前はフランスでジェニーとジョニーの二人でJohn & Jehnと言うオルタナ·デュオとして活動していました。John & Jehnは2006年に結成され、『John & Jehn』(2008年発表)と『Time for the Devil』(2010年発表)の2枚のアルバムを発表。フランス西部の町·ポワチエ出身のカミーユ·ベルトミエことジェニー·ベスと、ニコラ·コンジュことジョニー·ホスタイルは常に公私共に寄り添い、今回のソロ活動に関しても、二人でフランスに帰国し原点に立ち返ってアルバム制作に臨んでいます。

 更にフラッドとアティカス·ロスと言う強力な二人も共同プロデューサーとして名を連ねています。フラッドはNEW ORDERU2DEPECHE MODE等、数多くのアルバムを手掛けている名プロデューサーでおそらく、知らない方はまずいないはずです。そして、ジェニーが最初に声をかけたプロデューサーはアティカス·ロスでした。アティカス·ロスはトレント·レズナー(NINE INCH NAILS)のコラボレーターとして知られていますが、SAVAGESとは全く違うサウンド志向のアルバムを制作したかったジェニーにとって、アティカスはこのアルバム制作において重要な役割を果たしています。アルバム全体がインダストリアルなサウンドが中心になっている本作において、アティカスのプロデューサー起用はうってつけとも言えますが、ストリングスやピアノ、サンプリングまで導入して、デジタル·サウンドやヒップホップの手法を駆使した一辺倒なものにならないよう、アグレッシブさとアンビエントな要素を行き来したダイナミズムを感じさせるサウンドを構築することに成功しています。ビートもほぼ打ち込みで、SAVAGESとの違いを明確にするばかりか、極力、ロック的なサウンドにならないように意識しているようにも感じます(但し「I'm the Man」だけはSAVAGESやロックを感じさせますが)。

 アルバム収録曲の中では最もSAVAGESに近いアグレッシブなロック·ナンバーの「I'm the Man」は、自分がバイオレントな側面のある人間あることを肯定した内容の歌ですが、「A Place Above」でスポークンワード·ピースを披露している俳優のキリアン·マーフィーが出演するBBCのドラマ『Peaky Blinders』のシーズン5でも使われています。「Innocence」では都市の人間関係の希薄さ、他者への思いやりの欠落が歌われていますが、現在、世界中の都市でコロナ·ウィルスが蔓延してロックダウンや緊急事態宣言でますます、そうした状況を懸念させる状況なだけに響くものがあるかもしれません。「Flower」ではバイセクシャルのジェニーが女性との関係を歌ったものですが、この曲に関しても、どうしてもストイックなロック·バンドのSAVAGESでは出来ないテーマの曲かもしれません。The xxのロミー·マドリー·クロフトが参加する「French Countryside」はノスタルジックなラヴ·ソングですが、曲名通り、彼女の祖国のフランスに回帰するこの曲は、どこか英国のSAVAGESを離れて遠くへ行ってしまうような感覚すら思わせるものがあります。この曲は本作のハイライトの一つだと思いますが、SAVAGESにはない彼女の魅力を打ち出しつつ、もう我々はSAVAGESと永遠に会えないのかもと言う予感も感じさせてしまいます…。

 SAVAGESとは全く違うサウンドのアルバムではありますが、このアルバムの内容をじっくり考察しながら、ジェニーの様々な側面を楽しむのも、このアルバムの一つの楽しみ方だと思います。私もコロナ禍かつ連日の雨続きで憂鬱な気分になりがちですが、むしろ、ロックとかけ離れたジェニーのソロ·アルバムはこういう時に響きます。SAVAGESと違う方向性のアルバムではありますが、興味ある方には是非とも聴いていただきたい作品です。

 

 

 

 

 


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https://youtu.be/sUQCBCJkG5Y

 

 

 

 

 


https://youtu.be/XwOjI60EsTw

 

 

 

 

 


https://youtu.be/QYcVIPQiOpU

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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