吉良 吉陰の奇妙な音楽日記

It's Only Music, But I Love It.

90年代のグランジ/オルタナ·シーンに大きな影響力を持つパンク·バンド


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『3 CD BOX SET (Is This Real? - Youth of America - Over the Edge)』

WIPERS

 

 ここ数ケ月、このブログの始まりがコロナ·ネタでうんざりするかもしれませんが (苦笑)、皆さんも苦しみながらも、Stay Home生活にぼちぼち順応しながら、音楽も楽しまれているかもしれません。私もいい加減、Stay Home生活にうんざりしつつも何とか、音楽を少しづつ楽しめる精神状態になりつつあります。 

 …で、本日のブログの本題ですが、WIPERSの初期3作品(『Is This Real?』、『Youth of America』、『Over the Edge』)をコンパイルしたボックス·セット『3 CD BOX SET』について書きます。WIPERSといきなり言われても、なかなかピンと来ないかもしれませんが、NIRVANAやHOLE、MELVINS等、グランジ·シーンやオルタナ·シーンのバンドにカヴァーされているバンドと言われると分かりやすいかもしれません。特にNIRVANAがカヴァーした「Return of the Rat」と「D-7」で、WIPERSを知った方がほとんどではないかと思います。

 WIPERSは1977年に米オレゴン州·ポートランドで結成されたパンク·バンドで、結成当初のメンバーはグレッグ·セイジ(Vo/G)、デイヴ·コウパル(B)、サム·ヘンリー(Dr)ですが、グレッグ·セイジ以外のメンバーは流動的で実質的には、セイジ中心のバンドと言って良いと思います。1989年にバンドは一度解散しますが、グランジ勢、オルタナ勢の再評価もあってか、1993年に再結成し、1999年に解散しています。ちなみに1992年にはWIPERSのトリビュート·アルバム『Eight Songs for Greg Sage and The Wipers』(Eight Songs for Greg Sage and the Wipers - Wikipedia)もリリースされ、更に2006年には、80年代のポートランドの音楽シーンを取り上げた映像作品『Nortwest Passage : Birth of Portland's DIY Culture』がリリースされたことで、よりWIPERSの再評価が高まっています。ハッキリ言って、NIRVANAがカヴァーするまで、ほとんど無名に近いバンドの為、今までオリジナル·アルバムを聴ける機会もほとんど無かったわけですが、このボックス·セットは、ほぼ伝説の域に近い、このバンドの音楽を知るには最高のアイテムと言えると思います。ちなみにこのボックス·セットは、初期3作品をリマスタリングして、2001年にZeno Recordsからリリースされたものです。このブログでは、その初期3枚のアルバムを(いつも通りの駄文ではありますが)順番に取り上げたいと思います。

 

 


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『Is This Real?』(1980年発表)

 

 1980年にPark Avenue Recordsからリリースされた、WIPERSの記念すべきデビュー·アルバムで、プロデュースはグレッグ·セイジが担当しています。このアルバムには前述のNIRVANAがカヴァーした「Return of the Rat」と「D-7」も収録されていますが、NIRVANAだけでなく、「Mystery」をEAGULLS、JEFF the Brotherhood、SHELLSHAGが、「Up Front」をPOISON IDEA、コリン·タッカー(SLEATER-KINNEY)が、「Potencial Suicide」をNAPALM BEACHが、そして、「Wait A Minute」をMY VITRIOLがそれぞれ、カヴァーしています。無名のパンク·バンドが、これだけ多くのバンド/アーティストにカヴァーされているのは極めて稀で、NIRVANAの影響も大きいとは言え、それだけ、このアルバムの楽曲の質も高く、ポートランドのパンク·シーンのみならず、米国のグランジ/オルタナ·シーンに影響を最も与えた最重要アルバムの一枚と言って良いと思います。

 「Return of the Rat」で始まる、レコードで言うA面に当たる前半の曲は、2分前後のファーストな曲が多いですが、カヴァーしているバンドが多いキャッチーな「Mystery」が象徴するように、楽曲の質は極めて高いです。しかし、7曲目の「D-7」から始まる“B面”がダークで陰影のあるサウンドで、ストレートに力押しして来る“A面”のWIPERSとは違った側面を見せ、このダーク·サイドのWIPERSこそが後のWIPERSの姿と言えると思います。最もストレートなパンク·サウンドも、陰影のあるダークなサウンドの楽曲も網羅しているところが本作の魅力とも言え、また、後のグランジ/オルタナ·シーンのバンドを惹きつけて止まない部分なのだと思います。ちなみに、本作には11曲ものボーナス·トラックがあり、3曲は1978〜1979年にレコーディングされながら、アルバム未収録になったもの。そして、4曲のデモ·トラックに、1980年にリリースされたEP『Alien Boys』の4曲の楽曲もそれぞれ収録されています。

 

 


https://youtu.be/47_qIoXE-Lw

 

 


https://youtu.be/MRa5BWOOGZM

 

 

 

 


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『Youth of America』(1981年発表)

 

 1981年にPark Avenue Recordsからリリースされた、WIPERSの2ndアルバムで、プロデュースもデビュー·アルバム同様、グレッグ·セイジが担当していますが、ドラマーが早くもサム·ヘンリーからブラッド·ナイッシュに代わっています。この2ndアルバムのタイトル曲「Youth of America」はMELVINSがカヴァーしていますが、10分を超える、このタイトル曲を中心に、6分超の「When It's Over」と長尺ナンバーも登場し、「Can This Be」のようにデビュー·アルバムで聴けるストレートなパンク·ソングもあるものの、グレッグ·セイジがヴァリトン·ヴォイスで歌う異色のナンバー「Talking Too Long」を筆頭に、ダークで陰影のあるサウンドがアルバムを支配しています。デビュー·アルバムの“B面”のサウンドを更に押し進めて昇華させた形が、WIPERSを一塊のパンク·バンドから、後々のグランジ/オルタナ·シーンへの影響力を感じさせる唯一無二のバンドへと進化へと繋がったと言えると思います。デビュー·アルバムも、もちろん素晴らしい出来なのですが、後の影響力のあるWIPERSの真骨頂はむしろ、このアルバムのオリジナリティのあるサウンドにあるのかもしれません。ちなみに、このアルバムにもアルバム未収録のボーナス·トラックが5曲収録されています。

 

 


https://youtu.be/YaUzYISKKAI

 

 

 


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『Over the Edge』(1983年発表)

 

 1983年にリリースされた3rdアルバムで、グレッグ·セイジが立ち上げた自主レーベル、Trap RecordsとBrain Eater Recordsからリリースされています。このアルバムのタイトル曲「Over the Edge」は、HOLEがカヴァーしている曲でもありますが、このタイトル曲はHOLEの他に、MONO MEN、BORED!、RED FANGもカヴァーしている人気の高い曲です。このアルバムも、『Youth of America』同様にどこか陰影のあるダークな側面を感じさせる楽曲もありますが、「Youth of America」や「When It's Over」のような長尺曲はなく、「Over the Edge」や「Romeo」のようにアグレッシブなパンク·ナンバーが最も印象に残るため、前作のような違和感はないと思います。本作は力強さとダークな側面を理想的な形で共存させたアルバムと言っても良いと思います。アルバムのインパクトと言う点では、前2作より少し劣るかもしれませんが、各楽曲の質は極めて高く、完成度も高い作品です。ちなみに本作にもボーナス·トラックが7曲収録されています。それから、添付映像として『Nortwest Passage : Birth of Portland's DIY Culture』での、WIPERSのライヴ映像を貼りましたので(↓)、生のWIPERSのライヴをご覧いただけたらと思います。

 

 

 


https://youtu.be/d4WX_PGlqG4

 

 

 


https://youtu.be/e0jWG0ZY8hI

 

 

 

 ちなみにWIPERSは1999年発表の『Power in One』を最後に、オリジナル·スタジオ·アルバムを9枚リリースしていますが、とりあえず、この『3 CD BOX SET』を聴けば、WIPERSの魅力は充分に伝わると思います。この3枚が気に入って、更にアルバムを集めたいのであれば、それはそれで私がこのボックス·セットを紹介した甲斐があったと言うものです(笑)私もコロナ禍で一時期はロックどころか音楽を聴く気力すら失うところでしたが、徐々にではありますが、素直に音楽に向き合えるようになりました。皆さんもロックに限らず、音楽を聴いて、少しづつでも良いので英気を養ってください。

 

 

 


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