吉良 吉陰の奇妙な音楽日記

It's Only Music, But I Love It.

絶対王者が混迷の世に放つ10作目


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『Medicine at Midnight』

FOO FIGHTERS

 

 FOO FIGHTERSに関しては、このブログでは2015年に『FUJI ROCK FESTIVAL 2015』のライヴ·レポを書いて以来、随分、久々に書かせていただくことになります。もちろん、わざわざ苗場に彼らを観に行ったぐらいですからFOO FIGHTERSを好きに決まってますが、彼らのアルバムについて書く機会と言うか…なかなかタイミングが無かったんですよね (汗)。まぁ〜、それはともかく、このブログでは(FOO FIGHTERSのアルバムとしては)初めて書かせていただく、2月5日に発売になったニュー·アルバム『Medicine at Midnight』について触れていきます。

 思えば前2作はFOO FIGHTERSが新たなステージへと突入したアルバムだったと思います。2014年発表の『Sonic Highways』はアメリカを代表する8都市でレコーディングされ、ドキュメンタリー番組も製作された“アメリ音楽史へのラブレター”。2017年発表の前作『Concrete & Gold』はFOO FIGHTERS史上、最もスケール感のあるサウンドにすべく、アデルやベック、シーアのプロデューサーとして知られるグレッグ·カースティンを起用した“MOTÖRHEAD版『Sgt. Pepper's Lonely Heart's Club Band』”。いずれのアルバムも大きな話題になり高評価を得ましたが、以前のシンプルで普遍的なサウンドから大きな変化を遂げたような気がします。『Sonic Highways』はより曲構成が複雑な楽曲が多く、キャッチーさよりアルバムのトータル性にウェイトが置かれている気がしましたし、『Concrete & Gold』は何処か米国社会の闇…と言うか、トランプ政権下での悲観的な米国の未来を暗示しているかのようなダークな重さを感じさせました。どちらのアルバムも妥協を許さないデイヴ·グロールらしく、比類なき完成度を誇るアルバムでしたが、以前のような親しみやすさからは、少しかけ離れた感は正直、否めないところでした。

 2月にリリースされた本作は前作に引き続き、グレッグ·カースティンがプロデューサーを務めていますが、本作こそカースティンのプロデューサーとしての持ち味が発揮された作品かもしれません。ちなみにカースティンはシンガーソングライターのイナラ·ジョージと組んでいるポップ·ユニット、The Bird and The Beeのメンバーでもあります。実はデイヴ·グロールがThe Bird and The Beeの大ファンなのもあって、前作からカースティンをプロデューサーに迎えることにもなったわけですが、参考までにThe Bird and The BeeのMVも貼っておきます。

 


https://youtu.be/TMy6X5cQul8

 

 

 デイヴ自身、SCISSOR SISTERSのファンであることを公言していたこともある大のポップ好きでもありますが、The Bird and The Beeの他の曲も聴いていただくとカースティンのサウンド·クリエイターぶりが、より理解出来ると思います。

 では、本作について触れていきますが、ブラック·ミュージック·テイスト全開の女性コーラスが印象に残る1曲目の「Making A Fire」からして前作のダークさとは打って変わったソウルフルな新しいFFサウンドが聴けます。このコーラスにはThe Bird and The Beeのイナラ·ジョージに加え、デイヴの愛娘のヴァイオレット·グロール、それからテイラー·ホーキンスのTHE COATTAIL RIDERSのライヴにも参加経験のあるサマンサ·シドリー、ローラ·メイス、バーバラ·グラスカもコーラスに参加しています。独特なビートが耳に残る2曲目の先行シングルもダークな印象はあるものの色気も感じさせ、聴けば聴くほど惹き込まれていく不思議な魅力を持った曲だと思います。ファンキーなビートから始まりながらも哀愁を感じさせる5曲目の「Medicine at Midnight」、極彩色豊かなサイケデリックな8曲目の「Chasing Birds」等、多彩なFFサウンドが楽しめますが全体的には力強い前向きなロック·アルバムになっていると思います。アルバムのラストを飾る「Love Dies Young」こそ“愛は若くして死ぬ”と言う歌詞で見る限り、決して明るい内容のナンバーとは言えませんが、この曲ですらエキサイティングで高揚感を感じさせてくれますし、しばらくFOO FIGHTERSの作品を聴いていなかった方も本作なら、すんなりハマれるはずです。コロナ禍で世界的に絶望的な状況の中で敢えて、ポジティブなロック·アルバムを製作したのかもしれませんが、そこは私には分かりません。しかし前2作で変化を遂げたとは言え、常にロック·ファンの目線は意識してきただけに、音楽として自分達もファンも本当に心から楽しめる作品を目指したとは思います。相次いで、ライヴが中止になり音楽を聴くことを心から楽しめなくなった昨年だったら、もしかしたら、こういう前向きな力強いロック·アルバムは素直に心に響かなかったかもしれません。ライヴを安全に観る状況にはほど遠いですが、コロナ禍にも慣れ、本来、自分が好きな音楽に素直に向き合えるようになった現在こそ、必要なアルバムかもしれません。年齢を重ねて棺桶に片脚突っ込んでいる私が(笑)再びFOO FIGHTERSのライヴを楽しめる日が来るのかは分かりませんが、彼らに再会出来る日が来ると信じたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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https://youtu.be/R1G6-RUz3OA

 

 

 

 


https://youtu.be/xAVfdoovrIU

 

 

 

 

 

 

 

 


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期待の新作 (2021年初頭編③)

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 もう3月に突入しようとしているのに“2021年初頭”と言うのも変ですが (苦笑)、まだまだ、これから楽しみな新作が続々とリリースされます。こんな御時世故、ライヴには行けませんが、ぼちぼち暖かい季節を迎えて、フラフラと外に飲みに行きたくなる方もいらっしゃると思いますが(笑)、家でじっくり好きな音楽や気に入ったアルバムを聴くのも楽しいかもしれません。
 






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『Seek Shelter』
ICEAGE
(2021年5月7日 海外発売予定/日本盤発売未定)




 日本でも人気の高いデンマーク·コペンハーゲン出身のバンド、ICEAGEの5枚目のアルバムで、ニューヨークのインディー·レーベル「Mexican Summer Records」と契約しての初のアルバムにもなります。新世代のニック·ケイヴとしても評価の名高いフロントマンのエリアス·ベンダー·ロネンフェルトのカリスマ性のみが注目されがちですが、様々な音楽を吸収しながら、アルバムをリリースするごとに深化している音楽性も評価したいところ。
 彼らもある程度の人気は日本でも確立しているとは言え、このアルバムはICEAGEのこれからの新たな飛躍に繋がっていくかもしれません。近年はサウス·ロンドンを拠点としたバンドに話題が集中しがちな音楽シーンですが、ICEAGEのこれからの活動も大いに注目したいところです。







https://youtu.be/U1ZCcJLEvhM
 


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『Coral Island』
THE CORAL
(2021年4月30日 海外発売予定/日本盤発売未定)


 2000年代以降のリヴァプール音楽シーンを代表するバンド、THE CORALがリリースする新作。2018年リリースの前作『Move Through the Dawn』以来のアルバムになります。前作は爽やかな夏を思わせるようなレイドバックした雰囲気のアルバムでしたが、本作は発表された新曲(Faceless Angel)を聴く限りでは酩酊感のある印象的なメロディーのCORAL節が復活するのでは?と言う期待が持てそうな気がします。
 近年、話題を独占しているロンドン勢に対抗するとは言わないまでも、リヴァプールTHE CORALありを久々にアピールしたいところ。THE CORALもデビュー当初から様々な音楽を吸収した懐の深さを持ち合わせているだけに、話題やムーヴメントに左右されない素晴らしいアルバムを期待出来そうです。








https://youtu.be/5fpPoaBwtDI


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『Bright Green Field』
SQUID
(2021年5月7日 日本/海外同時発売)



 2015年に英ブライトンで結成された5人組のバンドのデビュー作で、エレクトロニカIDMを中心としたクラブ系音楽レーベルとして知られている「Warp Records」からのリリースとなります。
FRANZ FERDINANDをブレイクさせ、black midiとFONTAINS D.C.を発掘したことでも知られているダン·キャリーのプロデュースによる作品になります。
 何処か得体の知れないサウンドを鳴らしている点、ロック系のレーベルではなくクラブ系音楽中心のレーベルと契約しているところ等は、あのBLACK COUNTRY, NEW ROADと共通している部分ですが、このバンドもまた、BLACK COUNTRY, NEW ROADと同様にデビュー·アルバム·リリース前から英国音楽メディアで注目を集めていたバンドです。
 近年で言えば、black midiやBLACK COUNTRY, NEW ROADが気に入って仕方ないと言う偏屈者は(笑)是非とも聴いて欲しいデビュー·アルバムかもしれません。
 






https://youtu.be/__zmVSREvxY



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『New Long Leg』
DRY CLEANING
(2021年4月2日 日本/海外同時発売)




 DRY CLEANINGは2枚のEPをリリースしただけでblack midiやFONTAINS D.C.と共に注目されたバンドで、本作は名門インディー·レーベル「4AD」からリリースされる待望のデビュー·アルバム。
 このバンドもまたサウス·ロンドンの「Windmill」を拠点とするバンドではありますが、PJハーヴェイのプロデューサーとしても名高い、ジョン·パリッシュをプロデューサーに迎え、新世代のポスト·パンクとして注目されています。
 女性ヴォーカリストのフローレンス·ショウのスポークン·ワーズ風のヴォーカルが目立ちますが、DEVOSONIC YOUTHを思わせる尖ったサウンドも魅力の一つ。またサウス·ロンドンのバンドかと食傷気味になる方もいらっしゃるかもしれませんが、また素晴らしいバンドがサウス·ロンドンから登場したと思っていただいた方が良いと思います。








https://youtu.be/6PuqlOTyJt0


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『When You See Yourself』
KINGS OF LEON
(2021年3月5日 海外発売予定/日本盤発売未定)



 そしてラストは2000年代のガレージ·ロック·ムーヴメントから登場しながらも、現在では英米で圧倒的な人気を誇るスタジアム·バンドに成長したKINGS OF LEONが来月にリリースする新作。2016年にリリースされた英米でアルバム·チャート1位を獲得した前作『Walls』以来、実に約5年ぶりの作品になります。
 英米での圧倒的な人気に対して日本での人気は今ひとつなバンドですが、泥臭さもあった彼らのサウンドは年々、洗練さと色気が加わって研ぎ澄まされていき、決してガレージ·ロック·ムーヴメント人気の遺産だけでやっているバンドではありません。
 今年リリースされたFOO FIGHTERSの新作『Medicine at Midnight』同様に、王者としての威厳を感じさせる作品になりそうな予感はします。






https://youtu.be/YmeJrWu3CWo











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今年、最も聴かなければいけない一枚…かもね…(笑)


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『For the first time』

BLACK COUNTRY, NEW ROAD

 

 

 昨年と今年こそ、コロナ禍のパンデミックの影響で停滞していますが、ここ数年のロンドンの音楽シーンから素晴らしいバンドが続々、登場しているのは、新しい音楽を追っている方ならご存知のことと思います。SHAME、GOAT GIRL、black midi、SORRY、そして今年、デビュー·アルバムをリリースするSQUIDと、(現在、コロナ禍中とは言え)次々と個性豊かなバンドが登場している状況です。彼らはサウス·ロンドンのヴェニュー「Windmill」を拠点にし、音楽シーンを席巻しているわけですが、そんなロンドン音楽シーンの盛況の中、デビュー·アルバム発売前から最も注目を浴びているバンドが、このBLACK COUNTRY, NEW ROADです。このアルバムを聴いていない方でも音楽の情報を追っている方は何処かで必ず、彼らの名前を聞いたことがあるはずですが、アルバムを聴いていない方、もしくはネットでそれほど彼らの音楽を聴いていない方は彼らの実態が掴めないと思います。もっとも彼らの音楽自体、前述のロンドン勢とは違って、YouTube等で音源を少し聴いただけでは理解し難いバンドではあるのですが、私なりにこのバンドを色々な側面から調べ上げて解釈して、このアルバム及びバンドの魅力について書くつもりです。

 BLACK COUNTRY, NEW ROADはアイザック·ウッド(Vo/G)、ルイス·エヴァンス(Sax)、メイカー·ショウ(Key)、チャーリー·ウェイン(Dr)、ルーク·マーク(G)、タイラー·ハイド(B)、ジョージア·エラリー(Violin)の7人。今まで英国で彼らが行ったライヴは全てソールド·アウト。シングルとしてリリースした「Sunglasses」と「Athens, France」の2枚のシングルはプレミア化する等、デビュー·アルバム·リリース前から、どれほど彼らの期待が大きいのかが前述のエピソードから理解出来ます。そんな注目度の高い彼らが契約したレーベルがクラブ系音楽のレーベルとして有名な「Ninja Tune」。メンバーいわく「Ninja Tune」が最も熱心に彼らと契約したがっていたそうですが、ジャンルレスな彼らの音楽には下手なインディー·レーベルよりも活動しやすい面もあるのかもしれませんし、レーベルとしてもクラブ系音楽のファン層だけでなく、更に新たなファン層を増やす絶好のチャンスなのかもしれません。このアルバムのプロデュースを担当したのは、MY BLOODY VALENTINEやSORRYを手掛けたアンディ·サヴァース。アルバムはライヴ·レコーディング形式での録音になっているそうで、元々、彼らの音楽そのものがライヴを観ないと、その魅力や本質が掴めない部分が多々あるのも事実なので、こうしたライヴ·レコーディング形式がベスト…と、言うよりはこの形式での録音にならざるを得なかったのかもしれません。せっかくですから、ブログの途中ではありますが、その彼らの魅力でもあるライヴの映像も貼っておきます。

 

 


https://youtu.be/xCRy3_p_hiU

 

 

 

 アルバムのオープニングを飾るインスト·ナンバー「Instrumental」は、プログレやジャズ·フュージョンを思わせる、非常にライヴを得意とするバンドらしい始まり方ですが、2曲目の「Athens, France」は90年代のグランジを思わせるグルーヴが効いたナンバーで、アルバムの中では一番聴き易い曲かもしれません。「Science Fair」と「Sunglasses」はポスト·ハードコアもポスト·ロックもオルタナも内包した静寂さとノイズが入り混じった不思議な魅力を持った曲で、アイザック·ウッドのポエトリーリーディング風のヴォーカルもその不可思議な雰囲気を醸し出すのに一役買っているような気がします。そして、5曲目の「Trax X」は曲途中にサックスとヴァイオリンが溶け合うアルバム中、最も美しいナンバーとも言える曲で必聴。そしてラストの「Opus」も高揚感を感じさせるジャズともプログレともオルタナとも言える、彼らのライヴ·バンドとしての真骨頂と断言しても良い曲で、生でライヴで聴けたら最高の曲かもしれません。ざっと軽くアルバム全6曲を紹介しましたが、長尺なナンバーが多い割に6曲しかないので、もっと聴きたいと思っているうちに、あっという間にアルバムが終わってしまう感じで、もう少し食べたいと思っている時に食べ終わるのがちょうど良いとか、しょうもない例えが相応しいのかもしれません (苦笑)。彼らの音楽は色々な音楽を詰め込んだ混沌性がありつつ実験性も感じさせるのですが、実は意外にもアルバム通して、実は非常に聴き易いという実に不思議なアルバムです。彼らはもちろん実験的なバンドや音楽に影響を受けているのは確かなのですが、実は反面、大のポップ好きでもあります。彼らはMGMTの「Time to Pretend」をライヴでカヴァーしていたり、アルバム収録曲ではないですが「Busketball Shoes」という曲ではチャーリーXCXに対する愛を歌ったりしています。実際に彼らはMGMTやチャーリーXCXだけでなく、ラナ·デル·レイやビリー·アイリッシュもお気に入りだそうで、メンバーいわく本当はポップ·アルバムを作りたかったけど、自分達がポップなアルバムを作ろうとしたら、あのアルバム(もちろん、このデビュー·アルバム)になったと言うことらしいです(笑)それから、バンドの演奏以外にもアイザック·ウッドのポエトリーリーディング風のヴォーカルもバンドの魅力の一つになっていますが、このアイザックのヴォーカルは彼が独自でバンドのメンバーと関わりなく歌を入れているそうで、メンバーは少なくともライヴ中にはモニターの音を聴き取る為にアイザックのヴォーカルにはほとんど干渉しないそうです。

 昨年はコロナ禍でほとんどライヴが出来ない状態でしたが、交友のあるblack midiと自分達の拠点でもある前述の「Windmill」の資金調達の為のライヴを行ったりし、またメンバーのルイス·エヴァンスはSQUIDのデビュー·アルバム『Bright Green Field』に参加したりと、お互いに助け合いながら、「Windmill」の灯を消さないように頑張っています。英米でもようやく、コロナのワクチン接種が出来るようになり、音楽界にもほんの少しではありますが明るい未来が見えてきたと思います。一般人のワクチン接種が満足に出来る状況になっていない日本での来日公演等、当面、望めませんが、いつの日かBLACK COUNTRY, NEW ROADを始め、Windmill勢のライヴが楽しめる時が来るのを切に祈るばかりです。

 

 

 

 

 

 


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https://youtu.be/xDcGl8tZhrs

 

 

 

 


https://youtu.be/jkppJiPZJaw

 

 

 

 

 

 

 

 


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期待の新作 (2021年初頭編②)


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 今年の年始早々に一度、本ブログで『期待の新作 (2021年初頭編)』について書きましたが、その続編になる今回は、前回紹介し切れなかったアルバムと、前回紹介し忘れたアルバム (苦笑)も含めて書いていきたいと思います。今回紹介するアルバムに関しても、今年の重要作品になる可能性の高いものばかりだと思います。海外では『Glastonbury Festival』が今年の開催を中止を決定する等、今年も音楽業界にとって厳しい状況が続きそうな感じです…。前回にも書きましたが、我々、音楽ファンが楽しめるのはアーティスト側が提供してくれる音源だけです。いつの日か、この最悪の状況が少しでも緩和され、ライヴが楽しめる日が来るまで、我々は大好きなアーティストの音源を楽しもうではありませんか…。前回、紹介したアルバムも話題性充分のものばかりだったと思いますが、今回紹介するアルバムも話題性では事欠かないものばかりだと思います。

 

 

 


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『For the First Time』

(2021年2月5日 日本/海外同時発売)

BLACK COUNTRY, NEW ROAD

 

 

 昨年、コロナ禍に襲われてしまったものの、近年、black midi、GOAT GIRL、SHAME、SORRYと言った話題性も質も高いバンドがロンドンから続々と登場している状況ですが、このバンドもこのデビュー·アルバム発売前から全公演がソールドアウトになるほどの人気ぶりで、大袈裟でも何でもなく、今年最も聴かなければいけないアルバムの一枚かもしれません。彼らは7人編成のバンドで、あらゆる音楽を飲み込んだ混沌としたハイブリッド感、ミクスチャー感でバンドのサウンドの特色すらも読ませないミステリアスな部分もありますが、彼らのその混沌とした音楽性はライヴでこそ発揮されるもののようです。その音楽の混沌性故か、彼らが契約したレコード会社がクラブ系音楽の印象が強い「Ninja Tune」であるところも、彼らが普通のロック·バンドの枠を超えた存在であることを匂わせていたりもします。本作にはプロデューサーとして、MY BLOODY VALENTINE等を手掛けたアンディ·サヴァースが担当していますが、アルバムのレコーディングも彼らの持ち味が出せるであろうライヴ·レコーディングで行われたそうです。この状況下で“もし”と言う言葉は使いたくないですが、コロナ禍でなければアルバム·リリース後に来日公演をやれば、即座に公演がソールドアウトになるほどの話題性は充分あるだけに、この状況下を恨みたくなるばかりです…。

 

 

 

 

 

 

 


https://youtu.be/u3H8O8RJp3M

 

 


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『Drunk Tank Pink』

(2021年1月15日 日本/海外発売済)

SHAME

 

 

 2014年に英サウス·ロンドンで結成されたポスト·パンク·バンドの2ndアルバム。実は前回の『期待の新作 (2021年初頭編)』で紹介するはずなのが忘れていたので、発売後の今頃になって紹介することになりました (泣)。BLACK COUNTRY, NEW ROADの項でも既に触れてはいますが、近年のロンドンのロック·シーンを盛り上げているバンドの一つで、2018年に発表したデビュー·アルバム『Songs of Praise』は同年の『Rough Trade Records』の年間アルバム·チャートで第1位に輝いており、各音楽メディアの評価も非常に高いバンドです。バンドはTHE FALLやTELEVISION、WIRE等に影響を受けた、典型的なポスト·パンク·バンドですが、このアルバムで彼らが更なる進化を遂げて、IDLESと並ぶ2010〜2020年代を代表するポスト·パンク·バンドとしての地位を確立する試金石にもなりそうです。

 

 

 

 

 


https://youtu.be/jka7aCIHT-I

 


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『Typhoons』

(2021年4月30日 海外発売予定/日本盤発売未定)

ROYAL BLOOD

 

 2013年発表のデビュー·シングル「Out of the Black」が全英シングル·チャート1位、更に2014年発表のデビュー·アルバム『Royal Blood』が全英アルバム·チャート1位を記録。更に2017年発表の2ndアルバム『How Did We Get So Dark』も全英アルバム·チャート1位を獲得して、もはや英国を代表するバンドとしての地位を確立したギターレス·ロック·デュオの3rdアルバム。ギターレスで二人だけのバンドとは思えない厚みのある重厚でヘヴィーなサウンドが彼らの持ち味ですが、本作では彼らが影響を受けてきたDAFT PUNK、JUSTICEと言ったクラブ系アーティストのダンサブルなビートを取り入れた、新たなフェーズへと突入した作品になるそうです。元々、彼らのヘヴィーなサウンドの中で展開されるビートも元々、ダンサブルな要素は決して無いわけではなく、前述のクラブ系アーティストの影響を感じ取れないわけでもないのですが、二人組と言う限られた制約の中で進化するうえでの変化は必要不可欠なものかもしれません。MUSEのマシュー·ベラミーと比較されることも多いマイク·カーの情感的なヴォーカルも新しいサウンドの変化にフィットすれば、更なるバンドの進化が期待出来そうな気がしますね。

 

 

 


https://youtu.be/uURsMKMloM8

 

 


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『Intruder』

(2021年5月21日 海外発売予定/日本盤発売未定)

Gary Numan

 

 多くのアーティストに影響を与えている、今更、説明不要のニューウェーブ界のレジェンド、ゲイリー·ニューマンのニュー·アルバム。2017年発表の『Savage (Songs from a Broken World)』以来の作品になる本作は、2006年発表のアルバム『Jagged』以来、ニューマンのプロデューサーを務めているアデ·フェントンのスタジオでレコーディングされたそうです。今回のアルバムのテーマは気候変動を地球の視点から見たものになっているそうで、地球が我々と同じように感じたり、話したり出来たら、現在の世界の状況をどう思うか? アルバムに収録されている楽曲のほとんどは、この重いテーマを元にしているそうで、終局に向かっていく現在の世界の状況そのままに、ヘヴィーな内容のアルバムになっているのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 


https://youtu.be/-RxebQuFgJY

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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2020年代進化形ハイブリッド·サイケデリック·サウンド


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『925』

SORRY

 

 

 昨年12月に『Best Album Of The Year 2020』を発表させていただきましたが、昨年に限らず、年間アルバム·ベスト10を発表する際、実は必ずと言って良いほど、このアルバムは絶対に10枚に入れるべきだったと思ったり、或いは泣く泣くベスト10から外さなきゃいけないアルバムが出てきたりがあるのですが、このSORRYのデビュー·アルバムも素晴らしい出来にも関わらずベスト10から外れてしまったアルバムの一枚です。しかし、このアルバムは私が昨年選んだ10枚から外れたとは言え、未来の英国ロック·シーンにとって重要な一枚になる可能性も秘めたアルバムです。

 

 ここ2〜3年、正確に言えば2018年に南ロンドン出身のSHAMEとGOAT GIRLのデビュー·アルバムが、そして2019年には北ロンドン出身のblack midiSQUIDが音楽メディアに大きな称賛を浴びるようになり、特にライヴハウス「Windmil」を拠点にしている南ロンドン勢は大きく音楽メディアに注目を浴びるようになりました。この“南”の盛況故か、このバンドもしばしば南ロンドン勢として扱われていますが、このバンドはロンドン北西部カムデン出身です。

 度々、前置きが長くなってしまい申し訳無いのですが、アルバムの内容に触れる前にバンドの経歴を簡単に説明したいと思います。SORRYは7歳からの友人でもあるアーシャ·ローレンツとルイ·オブライエンを中心に結成され、後にドラマーのリンカーン·バレットとベーシストのキャンベル·バウムが加わり現在の形のバンドになりました。ちなみにアーシャとルイの二人は中学生時代はカヴァー·バンドをやっていて、ジミ·ヘンドリックス等のロック·クラシック等をレパートリーにしていたそうです。そんな彼らも音楽情報が蔓延している現代の若者世代らしく、急激にヒップホップに傾倒。特にPro Eraのミックス·テープ『PEEP: The aPROcalypse』を1年半くらいハマっていたそうで、特にロックと言う枠にハマることなく、この時代にコンピューターで音楽を制作する楽しみを覚えたことが、通常のギター·ロックの枠を超えた彼らの個性に繋がったのだと思います。そして2017年に「Domino Records」と契約すると、同年12月にデビュー·7インチ·シングル「Wished/Lies」をリリース。この後も何枚かシングルをリリースし、SUNFLOWER BEANやAlex Gのサポート·アクトを務めてキャリアを重ねると、既に2018年にデビュー·アルバムが高い評価を得ていたSHAMEやGOAT GIRLに続く次世代のバンドとして注目され始め、ようやく2020年3月にデビュー·アルバム『925』がリリースされました。

 この待望のデビュー·アルバムを手掛けたのは、GorillazやJamie Tを手掛けたジェイムズ·ドリング。ギター·ロックだけでなくヒップホップも傾倒してきた彼らには正に打ってつけのプロデューサーと言えると思いますが、サイケデリック·サウンドを基調としつつ、ギター·ロックからトリップ·ホップ、エレクトロニクス、ジャズまであらゆる音楽を飲み込んだハイブリッドかつ酩酊感を感じさせる摩訶不思議な世界観を構築しています。サイケデリック·サウンドを基調としていると言う点では、GOAT GIRLと共通していますが、あくまでアナログ·サウンドに拘ったGOAT GIRLに対し、SORRYは古典的要素がありつつモダニズムを感じさせるところがあるところに違いを感じるはずです。アーシャとルイの男女二人故か、1曲目の「Right Round the Clock」に代表されるような恋愛の愛憎関係を描いた曲も何曲かありますが、心地良さを感じる浮遊感にも関わらず(それが社会に対するものか個人的なものかはともかく)何処かヒリヒリとした歪みも感じます。或いはまるでパンデミックの到来でも予想したかのような“死”をテーマにした美し過ぎる「In Unison」があったりもします。もちろん、このアルバムはコロナ禍以前に制作されたアルバム故、コロナによるパンデミックとは無縁だったはずのアルバムですが、運悪くアルバム·リリース後にツアーが出来なくなったのだけは残念です…。ちなみにこのアルバム·タイトルの『925』ですが、コレはアルバム収録曲の「Rock ‘n’ Roll Star」の歌詞の「Silver 925」から取られていて、純銀の本当の銀の割合は100%ではなく実際には92·5%だと言うことから“不完全”を意味するのだそうです。本作はかなり完成度の高いアルバムですが、彼らの潜在能力からすれば、次作は更に“完全”なアルバムに近づくのではないでしょうか?

 

 

 

 

 


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https://youtu.be/FiBTA5BCl1Y

 

 

 

 

 


https://youtu.be/Cshb6NAwcFo

 

 

 

 

 

 


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期待の新作 (2021年初頭編)


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 本ブログ購読者の皆様、あけましておめでとうございます。昨年…否、ここ数年はブログ更新が滞りがちですが (苦笑)、今年もマイペースながらも、何とかブログを更新していきたいと思っています。昨年は音楽業界もコロナ禍で未曾有の大恐慌に襲われてしまいましたが、そんな時でも、せめてアーティストが発表する音源だけは追っていきたいものです。今回はかなり久々の“期待の新作”シリーズですが、(ベタではありますが)今年リリースされる期待の新作を紹介していきたいと思います。ベタとは言っても、かなりの注目作揃いではあると思うので、この中から一枚くらいは皆さんにとって、今年聴くべき一枚はあるのかな?と思います。

 

 

 


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『Medicine at Midnight』

(2021年2月5日 日本/海外同時発売)

FOO FIGHTERS

 

 ロック界の絶対王者がコロナ禍で世界中が苦しむ中に放つ、絶望の中の一縷の希望とも言える新作。通算9枚目になる2017年発表の前作『Concreate & Gold』に続く、通算10作目の新作は前作を手掛けたグレッグ·オースティンが引き続きプロデュースを担当。シーアやアデルを手掛けた経験もあるオースティンの起用は前作でバンドを新境地へと導きましたが、全てを手に入れても進化し続けるバンドを更なる高みへと導くに違いありません。バンドは11月7日の『Saturday Night Live』で新作からの第1弾シングル「Shame Shame」を披露。37分全9曲に凝縮されたFFの記念すべき10作目はコロナ禍をぶっ飛ばす爽快な作品を期待出来そうです。

 

 

 

 

 

 

 

 


Foo Fighters - Shame Shame (Official Video) - YouTube

 

 

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『On All Fours』

(2021年1月29日 日本/海外同時発売)

GOAT GIRL

 

 2016年に英サウス·ロンドンで結成されたガールズ·バンドの2ndアルバム。2018年に名門「Rough Trade Records」からリリースされたデビュー·アルバム『Goat Girl』は倦怠感、酩酊感、頽廃美を感じさせながらも、アルバム全体の完成度が群を抜いており、デビュー·アルバムは近年屈指の名盤と断言しても良いものだったと思っています。2ndアルバムにあたる本作は、前作に引き続き、FRANZ FERDINANDやFONTAINS D.C.、black midi等も手掛けたダン·キャリーがプロデュースを担当。キャリーがプロデュースする作品そのものは何れもロック界の大きく話題にされることも多く、前作に引き続き本作も素晴らしい作品に仕上げていることは、まず間違いないと思います。多彩な音楽を呑み込みつつ、独自の世界観を築ける彼女達の作品、今から凄く楽しみにしているのは私だけではないはずです。

 

 

 

 

 

 

 


Goat Girl - Sad Cowboy (Official Music Video) - YouTube

 

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『Spare Ribs』

(2021年1月15日 日本/海外同時発売)

SLEAFORD MODS

 

 

 

 英ノッティンガム出身のジェイソン·ウィリアムソンとアンドリュー·フェーンによる、DIYラップトップ·パンク·ユニットによる新作で、GOAT GIRL同様、「Rough Trade Records」からリリースされる期待の一枚。見た目は酔いどれ中年親父に過ぎませんが、労働者階級の社会的メッセージに込められたジェイソンのヴォーカルは現代のジョン·ライドンではないかと私は思っていますがね(笑)ちなみに本作では女性ラップトップ·パンク·アーティストのビリー·ノーメイツ、更には同じレーベル·メイトでもある、AMYL AND THE SNIFFERSのエイミー·テイラーをゲストに迎え、ゲストにも現在のイキの良いパンク·ヴォーカリストを迎え入れているところも良いです。

 

 

 

 

 

 


Sleaford Mods - Mork n Mindy Ft. Billy Nomates - YouTube

 

 

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『Who am I?』

(2021年2月12日 日本/海外同時発売)

PALE WAVES

 

 

 英マンチェスター出身の男女混合インディー·ポップ·バンドの2年ぶりの2ndアルバム。2018年にリリースしたデビュー·アルバム『My Mind Makes Noises』をリリースした彼らは、フロント·ウーマンのヘザー·バロン·グレイシーのゴシックなルックスのインパクトもあって、英国本国だけでなく日本でも人気を獲得。デビュー·アルバムでは80年代のエレクトロニック・ポップをベースにした彼女達のポップ·ワールドでしたが、本作ではデビュー·アルバムの世界観を更に進化させた、新たな境地と進化が見られるかが新作の評価になりそうです。この新作はコロナ禍のLAで録音されたそうですが、そうした特別な環境の中、MUSEFOO FIGHTERSSigur Rosを手掛けたプロデューサー、リッチ·コスティーを迎え制作されており、楽しみな一枚になりそうです。

 

 

 

 

 


Pale Waves - She's My Religion - YouTube

 

 

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Best Album Of The Year 2020



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 コロナ(COVID-19)の猛威で2020年の音楽界は史上最悪とも言えるダメージを受けました。世界中のほとんど全てのフェスは中止、もしくは来年への延期。無論、コロナ以降の来日公演のほぼ全てが中止·(来年以降に)延期となりました。今月から米国でワクチン接種が始まるそうですが、それでも来年以降の音楽界に明るい光は見えてこないのが事実です…。しかし、そんなコロナ禍中でもアーティスト側は様々な形で我々に音源を届けてくれたのは確かです。私自身もほとんど参加予定の来日公演が中止·延期になり、一時期は音楽を聴く気力すら奪われた状態でしたが、それでもアーティスト側が届けてくれた音源が少しでも、私の心の糧になったのは確かです。この音楽ブログもかなり久々に書かせていただきますが (苦笑)、今年も私なりの“Best Album Of The Year”を選出させていただきました。

 

 

 

 

 


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①『None Of Us Are Getting Out Of This Life Alive』

THE STREETS

 

 

 UKのカリスマ·ラッパー、マイク·スキナーことTHE STREETSの9年ぶりのアルバム。2011年に『Computers and Blues』をリリースした後、マイク·スキナーは一旦、THE STREETSとしての活動を休止し、THE MUSICのロブ·ハーヴェイとのプロジェクト、THE D.O.T.をスタートし、2枚のアルバムをリリース。THE STREETSとしては2017年にシングル「Burn Bridges」をリリースしたのを皮切りに、2018年にも3枚のシングルをリリース。そして昨年の『Glastonbury 2019』にも出演し、今年発売したアルバムで本格的に復活の狼煙を上げることになるはずでした…。ケヴィン·パーカーことTAME IMPALAとのコラボをアルバム冒頭に据え、IDLESを招いたノイジーな表題曲と話題性充分なコラボレーション曲が初っ端から続きますが、THE D.O.T.での盟友、ロブ·ハーヴェイが参加している「Conspiracy Theory Freestyle」、そしてラストを飾るクリス·ロレンゾとのドラムンベース·ナンバー「Take Me As I Am」まで魅力的なコラボレーション·ナンバー目白押しのナンバーばかりで、私が今年のアルバムのナンバーワンに選出するに相応しい作品だと思います。THE STREETSはやれ“英国のエミネム”だの“UKガラージボブ・ディラン”だのと言った評価が我が国には未だありますが、マイク·スキナーはARCTIC MONKEYSのアレックス·ターナーやCATFISH AND THE BOTTLEMENのヴァン·マッキャンにも多大な影響を受けたストーリーテラーでもあることをココに付け加えておきます。

 

 

 

 


https://youtu.be/wsqz0kI255E

 

 

 

 


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②『KiCk i』

Arca

 

 

 アルカの2017年以来3年ぶり4作目のスタジオ·アルバム。2位と言う順位にはしていますが、ほぼTHE STREETSのアルバムと同率1位(?)と解釈していただいても構いません。それくらい、このアルバムのインパクトは強力でした。前作『Arca』では初めて自身がヴォーカルを取るようになり、悲劇の歌劇オペラとも呼べる作品を作り上げましたが、本作ではエクスペリメンタル·ポップとも呼べる、前作とは打って変わった陽性のアルバムになっています。ビョーク、ソフィー、ロザリアと言った曲者揃いのゲストも迎えていますが、THE STREETSと違うところは、ゲストを迎えても結局はアルカの独壇場になるところ。自身のジェンダーのノンバイナリーをそのまま曲名にした「Nonbinary」から、矢継ぎ早にエクスペリメンタル·ワールドが繰り出されていきますが、不思議とアルバムを聴いていると心地良さを感じさせてくれるところはアルカのセンス故だと思います。音楽を聴く気力を失っていた時期に、このアルバムと出会って私自身、救われた気持ちにもなったこともココに付け加えておきましょう。

 

 

 

 


https://youtu.be/AZKPd3k6O6A

 

 

 

 

 


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③『Monument』

MOLCHAT DOMA

 

 

 

 ベラルーシ·ミンスク出身のポスト·パンク/コールドウェーヴ·バンド、MOLCHAT DOMAの3作目。MOLCHAT DOMAは2017年にデビュー·アルバム『S KRYSH NASHIKH DMOV』、2018年に2ndアルバム『Etazi』をリリースすると、Band Campやストリーミングで驚異的な再生回数を記録し、両アルバムが「Sacred Bones Records」でリイシュー発売されました。彼らはもはや“ソヴィエト·ウェーヴ”と呼ばれるロシア語圏内のニューウェイヴ·バンドを代表する急先鋒的な存在として世界中のポスト·パンク/ニューウェイヴ·ファンに知られる存在となっていますが、本作はよりニューウェイヴ色を強め、ヴォーカリストイゴール·シュクトコのロマンチシズムにも磨きがかかり、旧作に比べて進化した作品に仕上がっています。「Discoteque」のようなディスコ·テイストなニューウェイヴ·ナンバーもありますが、決して軽くなり過ぎることなくロマンチシズムも重厚さも携えた作品です。

 

 

 

https://youtu.be/A6qmSBlhNik

 

 

 

 

④『RTJ4』

RUN THE JEWELS

⑤『Down In The Weeds, Where The World Once』

BRIGHT EYES

⑥『Gentle Grip』

PUBLIC PRACTICE

⑦『To Love Is To Live』

Jehnny Beth

⑧『Arrow』

Noveller

⑨『A Hero's Death』

FONTAINES D.C.

⑩『Notes On A Conditional Form』

THE 1975

 

 

 以上(↑)が今年、私が選んだ“Best Album Of The Year”ですが、いつもの年(この企画は毎年はやってはいないのですが)に比べるとロックではないアルバムを多く選出しているかもしれません。そもそも1位のTHE STREETSも2位のアルカもロックじゃありませんし、4位のRUN THE JEWELSも同様です。でも今年はコロナ禍でライヴに参加出来なかった分、(少なくとも昨年よりは)色々なジャンルのアルバムを聴く機会も増えたとは思います。恐らくは来年もコロナ禍で音楽界も今年と同じような状況は避けられないかもしれません。そんな状況で我々、音楽ユーザーに出来ることはアーティストの作品を購入してあげることで彼らに貢献することしか出来ません。コロナが収束する頃には、決して若くない私がライヴに参加出来るかどうかは微妙ですが、彼らが創作した作品には出来る限り、来年以降も触れていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 


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