SONIC YOUTHの遺伝子を引き継ぐオルタナ女子
『Bait is for Sissies』
KINO KIMINO
6月に発売された、ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動している女性アーティスト、キム・タロンがKINO KIMINO名義でリリースした初のアルバムです。
キム・タロンが作品をリリースしたのは無論、このアルバムが初めてというわけではなく、彼女が音楽キャリアをスタートさせたのは、2000年代半ばに結成した、ロサンゼルスを拠点に活動していた、EAGLE &TALONという女性エクスペリメンタル・ロック系女性デュオで、自主制作でアルバム『Thracian』(2009年)とEP2枚をリリースして、2011年に解散。 EAGLE & TALON解散後、タロンは活動拠点をニューヨークに移し、ソロ・プロジェクトのJANを始動。 BLOND REDHEAD、THE GOSSIP、SLEATER-KINNEYのアルバムを手掛けたジョン・グッドマンソンをプロデューサーに迎えて、デビュー・アルバム『Jan』(2012年発表)をリリース。 シュゲイザーやグランジの要素を感じさせるJANのサウンドは、KINO KIMINOの原点になっているとも言えます。
タロンが新たに立ち上げた、KINO KIMINOのこのデビュー・アルバムが今までの彼女の音楽活動の中で最も注目されている理由の一つが、このアルバムの制作をサポートしているスタッフの顔ぶれで、元SONIC YOUTHのリー・ラナルド(G)とスティーヴ・シェリー(Dr)が全面的にバックアップを務めていること。そして、このアルバムのプロデューサーにカート・ヴァイルやDINOSAUR Jr.を手掛けたジョン・アグネロを起用していること。 更にレコーディングはSONIC YOUTH所有のスタジオ"Echo Canyon West"を使用していると言う、強力なSONIC YOUTH人脈/オルタナ人脈が関わっている、それだけでも充分に注目すべきアルバムなのです。
タロンはこのアルバムで、ギターに加えてエレクトリック・シタールやウクレレを弾き、元SONIC YOUTH組のリー・ラナルド&スティーヴ・シェリーに加えて、DIAMONDS UNDER FIREというロサンゼルスの女性グループで活動しているメリンダ・ホルム(B)の4人でバンドを構成。更に客演としてボブ・ディランとのコラボレーターとして知られているデイヴィッド・マンスフィールドや、このアルバムのプロデューサーでもあるジョン・アグネロ自身等も名を連ねています。
EAGLE & TALONやJANの当時から、90年代のオルタナティヴ・ロックやライオット・ガール系の雰囲気を匂わせて、実際にSLEATER-KINNEYやTHE BREEDERS、VERUCA SALT辺りと、そのサウンドは比較されてもきましたが基本的にこのKINO KIMINOというプロジェクトは、デュオとしての活動だったEAGLE &TALON、オルタナではあるもののソロとして、タロン自身が自由にクリエイトしたソロ作品であるのに対して、あくまでバンドとしてのこだわりが見えるのが大きいような気がします。
ラナルド&シェリーの参加とツイン・ギターの編成上、どうしてもSONIC YOUTHを連想させるのは否めないところなのですが、ソロ・プロジェクトながらバンドとしてのケミストリーを感じさせるところは、USオルタナ好みの音楽ファンにとっても聴きどころは多いアルバムだと思います。
アルバムのリード・トラックの「Passion」や「Cate Out」で聴くことが出来る、骨太でノイジーなギター・サウンドは、今まで、EAGLE & TALONやJAN時代から構築してきたオルタナ・サウンドにバンド・アンサンブルが加わり、今までよりスケール・アップしていることを実感させますが、ピアノやチェロを挿入した「Pale Calico」、フォーキーな弾き語りの「Grapes」等、曲のヴァリエーション自体も豊かになり、タロンが理想のアーティストとして挙げている、PJ ハーヴェイを感じさせてくれたりもします。
コートニー・バーネットがオルタナ・シーンを代表する女性アーティストとして評価を一躍高めていますが、そのコートニーにも決して引けを取らない女性アーティストとして、このキム・タロンは注目されても良いはずだと私は思います。
それはタロンがコートニーより過小評価されている云々という意味合いではなく、タロンには敬愛して止まない、PJ ハーヴェイのようにオルタナという枠を超えたスケールの大きいアーティストとしてこれからが期待出来そうな気がするからです。
KINO KIMINOがツアーを行う際のバンド編成やセットが組まれているのかは私は分かりませんが、日本でもKINO KIMINOの来日公演の実現を切に願って止みません。