吉良 吉陰の奇妙な音楽日記

It's Only Music, But I Love It.

更に進化した“エクスペリメンタル”·ポップ·ワールド


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『The Slow Rush』

TAME IMPALA

 

 今月14日にリリースしたオーストラリア出身のサイケデリック·バンド、TAME IMPALAの4作目のアルバムです。2012年にリリースした2ndアルバム『Lonerism』で世界中の音楽メディアに高く評価され、更に2015年にリリースした『Currents』が、本国オーストラリアのアルバム·チャートで初のナンバー1に輝いたのを始め、全英アルバム·チャート3位、全米アルバム·チャートでも4位に輝き、もはや、TAME IMPALAはオーストラリアのロック·シーンを代表するバンドになっています。前作『Currents』では、初期2枚のエクスペリメンタルなサイケデリック·ロックから、クラブ系ナンバーのキラー·チューン「Let It Happen」に象徴されるような煌くようなポップ·アルバムに変化を遂げましたが、その変化を遂げた前作から更にどう進化を遂げていくかが本作で問われるわけです。2019年3月に新曲「Patience」を発表。翌月にはシングル「Borderline」をリリースし、2015年の前作リリース以来の“沈黙”を破り、更に昨年10月には「It Might Be Time」、同年12月には「Posthumous Forgiveness」を発表し、既にこの一連の楽曲の公開で、本作の方向性は見えてきたと思います。この発表された楽曲を既にお聴きになった方は共通して前作のサウンドを踏襲していると感じられたと感じたはずですが、同時に前作とは“何か”が違うとも感じられた方もいるかもしれません。その“何か”の違いは、もちろん、このアルバムを通して初めて理解出来ることではありますが…。前作は非常に洗練された煌めきと華やかさを感じさせるアルバムでしたが、本作は1曲目の「One More Year」から、本質的にはポップであるにも関わらず、初期2枚にも通じる混沌や捻れを感じさせ、どこかエクスペリメンタルな部分を感じさせます。ケヴィン·パーカーはソングライター/プロデューサーとして過去にトラヴィス·スコット、レディー·ガガ、マーク·ロンソン、カニエ・ウェスト等、名だたるポップ·アーティスト達とコラボし、おそらくはそうした経験から自らの音楽をアップデートしていっていると思われます。そもそもがTAME IMPARAと言うバンドは、基本的にアルバム制作に関してはケヴィン·パーカー一人が自らのスタジオで楽曲を作り上げ、全ての楽器を演奏しており、他のメンバーはツアーで演奏しているに過ぎない、実質的にはケヴィン一人のバンドです。ケヴィンが様々なコラボで自らの音楽をアップデートしていっても、彼の中で過去から染み付いている、混沌としたエクスペリメンタルな音楽DNAがどこかで表層化するのだと思います。ケヴィンいわく、本作の収録曲の殆どが“時の流れ”を表現しているのだそうで、その“時の流れ”は様々なコラボ経験で培ったアップデートしたポップ·サウンドと、過去から染み付いているケヴィン自身の音楽DNAの共存にも繋がっているのかもしれません。また、ルネ·マグリットを思わせるアルバム·ジャケットのアートも“時の流れ”と言うコンセプトを表現したもので、ジャケットを描いたニール·クラグと共にケヴィン自身もジャケットのコンセプトに関わっています。このジャケットのアートとコンセプトは本作だけでなく、シングルの「Posthumous Forgiveness」と「Lost in Yesterday」で、窓から砂が流れ出ているアートが、このアルバムの押し寄せるような混沌性が象徴されているのかもしれません。

 

 


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 しかし、インディー厨が喜びそうな(笑)初期の混沌性やエクスペリメンタルな側面はあくまで、アルバムのサウンドの局面の一つであって、基本的には前作同様に質の高いポップな楽曲がベースになっています。シングルになった「Lost in Yesterday」や「Is it True」はファンク·ビートを強調したナンバーですし、「Borderline」のようにナチュラルで美しいナンバーもあり、シンプルにすべき楽曲では無駄に混沌性を導入せずに、なおかつ、様々なスタイルの楽曲を混在させつつ、アルバム全体のトータル性を意識して連動させているところも素晴らしいです。

 以前、私のブログの『Best Album of 2010's』でも述べましたが、2010年代のロック·シーンは大きなムーヴメントも起きず、近年、大きなブレイクを果たすのは、アデルやビリー·アイリッシュのような女性ポップ·アーティストやヒップホップ·アーティストばかりですが、ケヴィンのようにポップ·アーティストと盛んにコラボしているアーティストこそがこれからのロック·シーンを救うのかもしれません。…と言うか、本当に良い音楽だけがシーンで生き残っていくだけで、別にリスナー側はジャンルを問わず、自分が本当に愛すべき音楽を聴き続けるわけですがね…。それはともかく、このアルバムは今年の音楽シーンを代表する素晴らしいアルバムには間違いないと思います。それから、ケヴィンが更にアップデートで自らの音楽を進化/更新させていくことで、これからのTAME IMPALAもより進化していくのではないかと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Tame Impala - Lost in Yesterday (Official Video)

 

 

 

 

 

 

 

 


Tame Impala - Borderline (Official Audio)

 

 

 

 

 

 

 

 


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