吉良 吉陰の奇妙な音楽日記

It's Only Music, But I Love It.

(祝) 来日決定! (そして、記念碑的アルバム2枚の15th Anniversary)


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 今回のブログは3月に来日公演が決定したBRIGHT EYESが2005年に同時リリースした、2枚のアルバムについて書きます。今回のブログで取り上げるアルバム『I'm Wide Awake, It's Morning』と『Digital Ash in a Digital Urn』は、BRIGHT EYESの名を世に知らしめた、2005年の音楽シーンを代表する重要なアルバムでもあります。このアルバム2枚をリリースする前年(2004年)秋に、ブルース·スプリングスティーンR.E.M.PEARL JAM等、政治的意識の高いメジャー·アーティストが中心になり、ジョージ·W·ブッシュ再選に反旗を翻す為に大統領選挙投票への参加を呼びかける、大規模なキャンペーン·ツアー『Vote for Change Tour』が行われ、このツアーに参加しているアメリカン·ロックのレジェンド達に挟まれる形で参加していたのが、インディー·バンドのBRIGHT EYESDEATH CAB FOR CUTIEでした。結果的にツアーの甲斐なくブッシュ再選を阻むことは出来なかったわけですが、このツアーに参加したBRIGHT EYESDEATH CAB FOR CUTIEの全米での評価と知名度は格段に上がりました。BRIGHT EYESはアルバム·リリース前に先行シングル2枚をリリースし、「Lua」がBillboard TOP 100 Singles Salesチャートで1位、「Take It Easy (Love Nothing)」が同チャート2位と、シングルのセールス·チャートで1位·2位を独占すると言う快挙を成し遂げました (ちなみに通常の“Billboard TOP 100”はセールスだけでなく、ラジオのオンエア回数も加味したもの)。『Vote for Change Tour』はBRIGHT EYESDEATH CAB FOR CUTIEと言う新しい新世代の幕開けを予感させるバンドの台頭を促しましたが、NIRVANASEX PISTOLSのように音楽シーンそのものを変えたわけではなく、2001年の9·11以降の傷の癒えない米国社会の苦悩を体現した時代の象徴だったのではないかと思います。

 そして再び、このブログの本題でもある2枚のアルバムについて、話を進めていきますが、当初は2002年にリリースしたアルバム『Lifted or The Story is in the Soil, Keep Your Ear to the Ground』の制作後、同アルバムほど凝らないシンプルなアルバムを作りたくなって、『I'm Wide Awake, It's Morning』を1週間半ほどで完成させたそうですが、同時にコナー·オバーストの手元には『Digital Ash in a Digital Urn』のアイディアも出来ていて、同アルバムの制作にも着手。最初のうちはこの2枚を1枚に纏めようとしたそうなのですが、どう考えても、この2枚を1枚に収めるのは不可能と判断し、どうせなら同時に2枚をリリースしようと言うことになったそうです。今回のブログでは、この2枚のアルバムについて(いつも通りの駄文ではありますが)別々に書きたいと思います。

 

 

 

 


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『I'm Wide Awake, It's Morning』

BRIGHT EYES

 

 2枚のアルバムで先に完成したのは本作で、制作に取り掛かったのは03年の冬だったそうです。このアルバムに収録されている楽曲は以前から彼らがライヴで演奏してきたものばかりで、フォーク/カントリー系のトラディショナルかつ超シンプルなシンガー·ソングライター·アルバムになっています。このアルバムのレコーディングはマイク·モギス所有のプレスト!·スタジオで行われ、同じインディー·レーベルの「SADDLE CREEK」のレーベル·メイト、THE FAINTのクラーク·ベイクレイやアンディ·リマスター、ノラ·ジョーンズ等の楽曲提供でも知られているジェシー·ハリス、MY MORNING JACKETのジム·ジャケット等が参加しています。そして、このアルバムでの最も重要なゲストとして特筆すべきはエミルー·ハリスの参加です。エミルー·ハリスはグラム·パーソンズのアルバム『GP』、『Grievous Angel』にデュエット·パートナーとして参加したことでも知られている、アメリカン·フォーク/カントリー界屈指の女性シンガーとして知られていますが、彼女が本作の「We are Nowhere and It's Now」、「Another Travelin' Song」、「Land Locked Blues」で印象に残るコーラスを聴かせ、大きな貢献を果たしています。エミルーはまた、コナー·オバーストに対し、「ロック世代ならではのヴィジョンと新しい言葉を、伝統の枠組みの中に齎したアーティスト」と絶賛し、このエミルーのコナーに対する称賛の声が、本作が決してシンプルなだけに留まらない新しい時代の感性を感じさせるアルバムであることを物語っていると思います。コナー自身は本作でニール·ヤングやジャクソン·ブラウンと言ったシンガー·ソングライターのシンプルで美しい、空間のある音を目指したそうです。ほとんどライヴ録りに近いフォーク/カントリー系のサウンドにも関わらず古臭さを感じさせないのは、彼の唱法自体がフォーク/カントリーの古いフォーマットとは大きく違う、色々な音楽を自然に飲み込んだ独創的なものであることも大きいですし、常に比較対象にされてきたボブ・ディランとも違った、ジェフ·バックリィ登場以降の新しさを感じさせるところも大きいでしょう。歌詞自体は9·11以降の米国の重苦しい影を感じさせますが、コナーのヴォーカルはそれを包み込むように温かく、冷徹でマシーナリーな印象の濃い好対照な『Digital Ash in a Digital Urn』と比較すると、余計に本作に温かみを感じるのだと思います。

 ロックばかり聴いている音楽ファンの方には一聴すると地味に聴こえるアルバムかもしれませんが、何度か聴いているうちに、コナー·オバーストの表現力の素晴らしさに惹き込まれていくはずですし、また、アルバムの最後を飾る「Road to Joy」はロック·ファンの魂を揺さぶる熱い曲なので是非とも聴いていただきたいと思います。ちなみに添付したYouTubeの映像(↓)には敢えて、その「Road to Joy」のライヴ映像を貼っておきましたが、本当に素晴らしいライヴ映像なので、興味ある方には是非とも観ていただきたいです。

 

 

 

 

 

 

 


bright eyes - road to joy

 

 

 

 

 

 

 


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『Digital Ash in a Digital Urn』

BRIGHT EYES

 

 

 

 

 超シンプルなアコースティック·サウンドの『I'm Wide Awake, It's Morning』に対し、歪んだデジタル·サウンド、…と言うより、寧ろ、インダストリアルと言っても過言ではない正反対の音楽性を持ったアルバムが本作の『Digital Ash in a Digital Urn』です。『I'm Wide Awake, It's Morning』と共通して参加しているのは、マイク·モーギスとアンディ·ラマスター、THE FAINTのクラーク·ベイクレイ、THE ELECTEDの一員でもあるジェイソン·ボーゼル等。ゲストとして、YEAH YEAH YEAHSのギタリスト、ニック·ジナーと、エレクトリック·ポップ·ユニットとして知られている、THE POSTAL SERVICEDntelことジミー·タンバレロ等が参加しています。このゲストの違いだけでも、2作品のアルバムのサウンド志向の違いが顕著に出ています。また、コナー·オバーストとマイク·モーギスが使用している楽器も、当然ながら2作品で大きく違っています。『I'm Wide Awake, It's Morning』では、コナーはギターと歌のみ。マイクもマンドリンとペダル·スティール等のシンプルな楽器使用にとどまっていますが、本作ではコナーはサンプラーからウーリッツァー、あらゆる鍵盤類をこなし、マイクもテルミンティンパニなどを駆使して、使用している楽器にも大きな変化を見せています。サウンドも大きく歪んだデジタル·サウンドですが、コナーのヴォーカルも感情面での歪みまで体現するかのように歪ませており、コナーのヴォーカルまでもがノイズの一部として溶け込んでいるかのように感じさせます。もちろん、シンガー·ソングライターとしてフォークやカントリーの印象が強いBRIGHT EYESのアルバムとしては本作は異色の作品に聴こえるのかもしれませんが、過去にこうしたノイジーサウンドをクリエイトした楽曲を発表しているのは『Noise Floor』でも理解出来ますし、また、ディスコ·パンク·バンドのTHE FAINTとの交流の深さからも、こうしたサウンドとの接点を見出すことも出来ます。一曲目の「Time Code」こそヴォーカルが相当に歪み、エレクトロニカの手法が取り入れられている異色のナンバーではあるものの、他の楽曲に関しては、BRIGHT EYES本来のメロディ·メイカーとしての素晴らしさを感じさせるナンバーばかりであること気付くはずです。寧ろ、様々な音楽を吸収している現在のロック·ファンには、フォークロアな『I'm Wide Awake, It's Morning』よりも本作の方がより響くのかもしれません。ゲストの違いはあるものの両作の参加ミュージシャンにさほどの違いはないので、本質的な楽曲の構造そのものには大きな変化はなく、2枚をじっくり聴いていただければ、むしろ統一感を感じることが出来るはずです。

 コチラにもいつも通り、本作収録曲のYouTubeのMVを貼りました(↓)。このMVを観ていただくとお分かりいただけると思いますが、ノイジーな印象の濃いアルバムながらも曲そのもののメロディは本当に質の高いものばかりです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Bright Eyes - Easy / Lucky / Free

 

 

 

 

 

 そして、この記念碑的作品とも言える2作品のアルバムのリリースから15年経った2020年の日本公演も、いよいよ来月に迫りました。特にこの両作の全曲再現ライヴとかが予定されているわけでもなさそうですが、この2作品からの楽曲はかなり演奏されることと思います。私は個人的にBRIGHT EYESの大ファンでありながら、全く彼らのライヴに行く機会がなかったので、来月のライヴが非常に楽しみです。

 なお余談ですが、ブログを書いた本日(2/15)はコナー·オバーストの誕生日でもありますので、本日、このブログをご覧になった方はコナーの誕生日を祝ってあげてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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