吉良 吉陰の奇妙な音楽日記

It's Only Music, But I Love It.

2000年代以降のリヴァプールの最重要バンドの6年ぶりの新作



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『Distance Inbetween』







 先月にリリースされたばかりの英リヴァプール出身のバンド、THE CORALが2010年の『Butterfly House』以来、6年ぶりにリリースした通算7作目のスタジオ・アルバムです(2014年に幻のアルバムだったはずの『The Curse of Love』のリリースはありましたが、このアルバムはあくまで編集盤や未発表曲集としての扱い)。
 2008年にギタリストのビル・ライダー・ジョーンズが脱退し、2012年にはバンド活動は休止に入りました。ビル・ライダー・ジョーンズは脱退後もコンスタントにソロ・アルバムをリリースして精力的な活動をしてきましたが、ツアーに出てアルバムを制作するという作業を10年以上、繰り返しているうちにバンドは壁にぶち当たってしまい、活動休止を宣言してメンバー各自で別々の活動を始めました。
 そして、2014年にバンドとしての活動を再開すると、自主レーベル『Skelton Key Records』を設立し、前述の未発表曲集にあたる『The Curse of Love』をリリースしました。
 そして、オリジナル・メンバーのギタリスト、リー・サウゾールが個人的な面やクリエイティブ面を理由にバンドを離れましたが、バンド活動休止中にイアン・スケリーとSERPENT POWERというプロジェクトを一緒にやっていた、元THE ZUTONSのギタリスト、ポール・モウリーが本作から参加することになりました。
 1996年の結成以来、ちょうど20年にあたる記念すべき本作はバンド史上、最もシンプルでストレートで動的なアルバムと言えるものになったと言えるかもしれません。
 ジェームズ・スケリーは本作について今年1月のインタビューで次のように説明しています。
「今回のレコーディングは大体、3テイクくらいで、しかも最初のテイクを採用することが多かったんだ。それは俺達が今作では完璧であることよりも、生っぽい感触だったり、その場の興奮だったりを求めていたからなんだ。まずはフィーリングを掴むことが重要で、それから個々のピースを嵌めてったんだ。
 アレンジは極力ミニマルに、その代わりに今回はリズム・セクションが要だと思ってて、ベースとドラムを中心に考えてた。生のグルーヴが大事で、そういう音楽を求めてたんだ。」
 このアルバムのサウンドの生っぽさや臨場感は今までの緻密な印象が強かった、今までのTHE CORALサウンドよりもシンプルな印象はありますが、しかし、リヴァーヴやコーラスのかかったサイケデリックサウンド、そして、あのフォークロアなメロディーは間違いなく、あのTHE CORALそのものです。
 先行の無料ダウンロードで音源公開された「Chasing the Tail of a Dream」は元々、ジェームズ・スケリーがソロ・プロジェクトで試していたナンバーですが、この曲のヘヴィーなサウンドはアルバムのサウンドの指針になるのでは?という予想もありました。
 ジェームズ・スケリーも実際にヘヴィーなサウンドのアルバムを意識したそうなのですが、それはDEEP PURPLEのような様式的なハード・ロックでは無論なく、VELVET UNDERGROUNDのような実験的でアートな方向性のサウンドだそうです。
 ヘヴィーなグルーヴがアルバムの随所で鳴っているの確かなのですが、このアルバムの肝になっているのは、タイムレスなメロディーに尽きる。それがTHE CORALらしさなのだと思います。
 アルバム毎にサウンドこそ変わってきましたが、常にTHE CORALの魅力だったのはタイムレスなメロディーでした。2002年の不朽の名作とも言えるセルフ・タイトルのアルバム・リリースから質の高いアルバムを作り続け、壁にぶつかった2012年に休息を取ったのは大正解だったのだと思います。
 このアルバムのサウンドはシンプルですが、実は完璧主義のTHE CORALらしい作品です。タイムレスなグッド・メロディーを書き続けることが出来る限り、THE CORALがこれから最低でもいわゆる駄作と言われる作品を制作することは有り得ないと思います。
 2000年代のガレージ・ロック・ムーヴメントの最中、そのムーヴメントは全く無縁の立位置で独自のステイタスを築き上げ、現在ではリヴァプールの最重要バンドと言えるTHE CORALですが、彼等はこれからも2002年に衝撃のデビュー・アルバムをリリースした時と同様に、ひたすらグッド・ミュージックを作り続けるのみなのかもしれません。

























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