オイラのローファイ・アイドルが帰って来た~!!
『Ⅴ』
WAVVES
本作は2013年リリースの『Afraid of Heights』以来、2年半ぶりの新作になりますが、その2年半の間、フロントマンのネイサン・ウィリアムスは多岐に渡る音楽活動と、自身のレーベル"Ghost Ramp"の運営でかなりの多忙を極めていました。
まず、ネイサンが弟のジョエルと2012年に結成したエレクトロ/ヒップホップ・ユニット、SWEET VALLEYに始まり、同じく、ネイサンと弟のジョエルに加え、JEANS WILDER名義での活動で知られる、親友のアンドリュー・キャディックとのローファイ・サイケデリック・バンド、SPIRIT CLUBでの活動。
それから、数日前にこのブログでも紹介したことのある、CLOUD NOTHINGSとのコラボ・アルバムのリリースに加え、まだまだ、自身のレーベル絡みの音楽活動にも参加していたのですから、忙しい合間を縫って、待望のWAVVESのアルバムをリリース出来たのは驚くべきことです。
WAVVESは元々、宅録青年だったネイサン・ウィリアムスの個人ユニットとしてスタートしましたが、友人のライアン・ユルシュをドラマーに迎え、ツアーに出るようになり、2008年にセルフ・タイトルのデビュー・アルバムをリリース。
2009年には2ndアルバム『Wavvves』をリリースして、インディー・メディアから大絶賛されました。
友人のユルシュとは喧嘩別れしたものの、LIGHTNING BOLTのブライアン・チッペンデイルと共にインディー界の凄腕ドラマーとして当時、知名度の高かった、HELLA/DEATH GRIPSのザック・ヒルが一時的ではありますが参加したことで、WAVVESのインディー界での知名度はかなり高まりました。
特に2ndアルバムの『Wavvves』は、少なくとも自分の中で2000年代のお気に入りアルバムのベスト5には余裕で入るんじゃないかと思います。
しかし、初めて外部のプロデューサーを起用した、3rdアルバム『King of the Beach』は期待を裏切る低調な出来に終わりました。
このアルバムは、MODEST MOUSE、THE HIVES、MUTEMATH等を手掛けたデニス・ヘリングが手掛けましたが、刺のあるヤサぐれたローファイ感が魅力の前述の2枚に対し、刺を抜き去った中途半端なオルタナ・アルバムは、上り坂にあったWAVVESの人気の停滞にも繋がり、当然、ネイサンの怒りも買いました。
そして、2013年の4thアルバム『Afraid of Heights』を経て(4thのプロデューサーはジョン・ヒル)、PRIMAL SCREAM、MINI MANSIONS等を手掛けたウッディ・ジャクソンが、5枚目にあたる本作を手掛けました。
元々、WAVVESとウッディ・ジャクソンとの出会いは、彼がプロデュースした、PlayStation3/Xbox360のゲーム『Grand Theft Auto 5』のサントラに、WAVVESが参加したのがきっかけで、このゲームのサントラの仕事で両者は意気投合したそうです。
とにかく過去作以上にメロディーのフックを強く意識して、ポップ性を高めて、WAVVES史上、おそらく最もポップなアルバムに仕上がったのではないかと思います。
ポップというよりパワー・ポップと言った方が正解ですが、もっとも刺々しい初期の作品にしても、楽曲そのものはサーフ・ロックを内包していたのがWAVVES。
初期のようなローファイ感はほとんど感じませんが、印象的なフックのあるメロディーと、スピード感溢れるパンクな楽曲は実に爽快で、最初から最後まで聴き手を惹きつけます。
SPIRIT CLUBやCLOUD NOTHINGSとのコラボ等で多岐に渡る活動を行っているネイサンにとって、このアルバムでの、いわゆるパワー・ポップ路線は、ごく自然なものかもしれません。
初期のヤサぐれたWAVVESにハマった私にしても、元々はそのサウンドに内包されたポップ性に惹かれたのも事実。
このアルバムに収録されているシングル曲「Way Too Much」もまた、今年屈指のパワー・ポップ・ソングで、この曲を聴くだけでもネイサンのソング・ライターとしての充実ぶりが伺い知ることが出来ます。
WAVVESも含めた、ネイサンの多岐に渡る音楽活動は、次々と彼の中で沸き上がる充実した創造性にもあるのかもしれません。
このアルバムは、ネイサンの近年のそのサイド・プロジェクトの作品と一緒に聴き比べると、よりこのアルバムが楽しんで聴けるかもしれません。