吉良 吉陰の奇妙な音楽日記

It's Only Music, But I Love It.

『Y』以来、37年ぶりのデニス・ボーヴェルとのタッグ作品




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『Honeymoon on Mars』

THE POP GROUP

 

 

 

  先月28日にリリースされた、THE POP GROUPの新作で、昨年リリースされた再結成後初のアルバム『Citizen Zombie』以来、再結成後2作目の作品になります。 本作はデビュー・アルバム『Y』を手掛けたプロデューサー、デニス・ボーヴェルが37年ぶりにプロデュースすることが大きな話題を呼んでいますが、それ以上に3曲のプロデュースを手掛けている、BOMB SQUADのハンク・ショックリーの参加の方がむしろ驚きかもしれません。

 デニス・ボーヴェルの37年ぶりのプロデュース作品と言うことで話題は呼んでいるものの、この作品は決して『Y』の安易なアップデート盤にはなっていません。 このアルバムでデニスが再起用された経緯・意図は全く不明で、元々、デニスにプロデュースを依頼する予定ではなかったらしいのですが、このアルバムで深い意味を持つのは実はハンク・ショックリーの参加の方になると思います。 ハンク・ショックリーはPUBLIC ENEMYの初期3作品を初め、SLICK RICK、ICE CUBE等を手掛けてきたプロダクション・チーム、BOMB SQUADのメンバーで、様々なサンプリングを重ねあわせ、一歩間違えれば単なるノイズになりかねない組み合わせからパワフルな音楽を作り出す手腕で、ヒップホップ界に多大な影響を与えています。 ノイジーで重厚なサウンドを築き上げる、過激なサウンド・プロダクションはマーク・スチュワートの一連のソロ作品を手掛けてきたエイドリアン・シャーウッドの手法と非常に共通している部分があり、「白いアメリカに抑圧・差別・搾取されている黒人達に必要な情報を与えるのが我々の役目だと明言していたチャックD(PUBLIC ENEMY)と、世界中の真実を訴え続けてきたマークのポリシーも見事に合致しています。 このアルバムでバンドがやりたかったことは、THE POP GROUPモードのヒップホップだったのではないかと私は自分勝手に思っています。 私のあまりにも愚直過ぎる、この意見はTHE POP GROUPのファンに相当な反感は買いそうですが (苦笑)、このバンドを全く知らずに、このアルバムを聴いたら、純粋なヒップホップではないにしろ、かなり濃厚なヒップホップ・フレイヴァーを誰しもが感じるのではないでしょうか? ショックリーがプロデュースしている「War Inc.」のパーカッションの音やヴォイス・サンプル、「Burn Your Flag」の女性ヴォーカルの挿入の仕方、「City of Eyes」のイントロのSE等、ヒップホップ・ファンなら思わずニヤリとしてしまうようなサウンドも所々で聴くことが出来ます。 パンクという概念を壊し、先鋭的なサウンドを目指したのがポスト・パンクだとするなら、そのポスト・パンクという概念を壊したと言わないまでも、その枠組みを取り払ったのが本作と言えるかもしれません。 前作『Citizen Zombie』でポール・エプワースと作業することで、最新のテクノロジーにも精通してきて、より新しいサウンドを取り入れることに積極的になったのもあると思いますが、いつまでも過去の遺産的なサウンド固執しないのが、再結成後のTHE POP GROUPなのかもしれません。 『Citizen Zombie』の過去とは明らかに違うスタジオ・テクノロジーを駆使した作風に、往年のファンはおおいに戸惑いを覚えたと思いますが、本作はそれ以上に違和感を覚えたかもしれません。 デニス・ボーヴェルを起用したことで原点復帰を図るのではなく、更にテクノロジーを駆使した作品を仕上げるところが、過去に囚われず進化し続ける現在のTHE POP GROUPらしいところなのかもしれません。 しかし、『Y』の時から、ダブ、ファンク、フリー・ジャズ等、雑多な音楽を取り入れて異種配合したサウンドが彼等の持ち味だったことを考えれば、今回のヒップホップ・フレイヴァー濃厚な本作も決して、彼等らしくない作品なわけではありません。 1980年に解散後に各メンバーは各々のバンドで常に先鋭的なサウンドを追求し続けてきたわけですが、再結成後も常に新しいサウンドを追求する姿勢は、過去のサウンドと大きく変容しても変わらないのだと思います。 じゃあ、37年ぶりにデニス・ボーヴェルと再び組む意味は?と問われても、少なくとも私には分かりません。 ただ、2016年という時代にある音楽とテクノロジーを取り入れて、デニスとバンドが制作すれば必然的にこのサウンドの『Y』になる…なんだか、そんな気もしないでもないです…。

 

 

 

 

 

 

 


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