吉良 吉陰の奇妙な音楽日記

It's Only Music, But I Love It.

3年ぶり16作目の大傑作




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『Skeleton Tree』

Nick Cave & The Bad Seeds

 

 

 Nick Cave & The Bad Seedsが今月23日(海外では今月9日)にリリースした新作で、2013年に発表した『Push the Sky Away』以来、3年ぶりの作品になります。 海外で9日に発売された本作は全英アルバム・チャート初登場2位を記録し、有名音楽メディアの「Pitchfork」のアルバム・レビューでも"9.0点"と高評価を受けています。 ちなみに前作『Push the Sky Away』は全英3位を記録して、ニック・ケイヴのキャリア史上、最も成功した作品になりましたが、本作はそれをさらに上回るチャート・アクションを記録しています。

  また、本作の海外発売日前日の9月8日にはこのアルバムをフューチャーした映画『One More Time With Feeling』も世界各地の映画館で公開され、残念ながら日本での公開及び、映像作品化は未定ですが、前作『Push the Sky Away』と映画『20,000 Days on Earth』との関連性に近いものがあると思います。 そもそもニック・ケイヴ自身、サウンド・トラックの制作から脚本の執筆、俳優としてのキャリアまで、音楽だけでなく映像関係にも数多く関わっていて、音楽と映像のリンクはニック・ケイヴにもはや欠かせないものになっています。 私自身、映画『One More Time With Feeling』はもちろん観ていないので、このアルバムを映像とリンクして評価出来ないのは残念ですが、いつか同映画も鑑賞したいものです。

 本作のプロデュース及び、全曲の作曲を手掛けたのはニック・ケイヴとウォーレン・エリス。 ウォーレン・エリスは1994年からThe Bad Seedsのレコーディングに参加しているマルチ・インストゥルメンタリストで、GRINDERMANでも活動を共にしていまいましたが、映画『Lawless』、『Far from Men』のサントラのスコアもニックと共に手掛け、ニックが脚本を手掛ける『20,000 Days on Earth』のサントラのスコアも手掛ける等、The Bad Seeds以外でもニックの音楽創作の重要なパートナーになっています。

 このアルバムはニックにとって永遠のテーマでもある"神"に向かい合った「Jesus Alone」で幕を開けますが、全編のサウンドは本当にシンプルですが、深い悲しみを感じさせながらも限りなく美しいサウンドがアルバム全編を覆っています。 このアルバムの全編を覆っている深い悲しみは、2015年7月のレコーディング期間中に起きたニックの15歳だった息子、アーサー・ケイヴが崖から転落死した事故を多分に想起させるもので、息子アーサーへのレクイエム的な作品とも受け取れると思います。 The Bad Seedsは1984年にデビュー・アルバム『From Her to Eternity』をリリースして以来、音楽性は刻々と変化を遂げてきましたが、音楽性が変化しても、常に"愛"を問い掛けるロマンチストでもあったと思います。 このアルバムでも決して息子が亡くなった悲しみを引きずることなく、愛に咆哮するニックの姿をファンの多くは感じることでしょう。 ニック・ケイヴがキャリアを重ねるごとに衰えるどころか、むしろ多くの音楽ファンを魅了する存在になり得ているのは、もちろん映像とのリンクもあると思うのですが、どこかダークな感性を持っていても常に愛を求めるニックの感性に多くの方が惹かれようになったのもあると私は思っています。 ニック・ケイヴのファンは主にTHE BIRTHDAY PARTYから、ブリクサ・バーゲルドの在籍していた初期The Bad Seedsのサウンドや世界観を好む方が圧倒的多数だと思いますが、そうした若き日のニックのゴシックな感性を抜きにした愛を求める、悲しくも美しいニックの感性をファンならずとも感じることと思います。 息子の死があった以上、聞き手がアルバムに"悲しみ"を強く感じたとしても致し方ないと思いますが、もちろん、このアルバムは悲しみに暮れているだけの内容ではありません。 アルバム最後を飾るタイトル曲の「Sleleton Tree」では「無償のものなど何もない。今はもう大丈夫だ。」と歌っている通り、心の中で負ってしまった悲しみの代償は大きくても前向きに生きようとするニックの姿があります。 今まで、ニック・ケイヴを聴いたことが無かった方にもこのアルバムは是非とも聴いていただきたいと思っています。 長年キャリアを重ねているにも関わらず、今まで以上に愛され続けているニック・ケイヴの本質がアルバムから伝わってくるはずです。 私はこのブログのタイトルに"大傑作"と冠しましたが、それもあながち嘘ではないと理解していただけるはずです(笑)

 

 


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