吉良 吉陰の奇妙な音楽日記

It's Only Music, But I Love It.

ジョニー・マーが結成したスーパー・バンド唯一のアルバム



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『Boomslang』
Johnny Marr + The Healers






 元THE SMITHSのギタリスト、ジョニー・マーがKULA SHAKERのベーシスト、アロンザ・ベヴァン、後にOASISや再結成THE WHOのドラマーとして活躍することになる、元THE BEATLESのリンゴ・スターの息子でもあるドラマー、ザック・スターキーを中心に結成されたバンド、Johnny Marr + The Healersが2003年に発表したデビュー作にして唯一のアルバム。
 マーは2010年以降に『The Messenger』(2013年)、『Playland』(2014年)の2枚のスタジオ・アルバムをリリースしていますが、このアルバムはマー自らの名を冠して、ヴォーカルを取った最初のアルバムになります。
 THE SMITHS解散後、マーはTHE THE、ELECTRONIC、MODEST MOUSETHE CRIBS等、数々のバンドに加入してきましたが、2010年代にソロ活動するまで、マー個人が唯一、イニシアチブを取ったバンドと言えるかもしれません。
 マーがザック・スターキーと出会ったのは1997年のこと。リンゴ・スターの息子とは言え、OASISや再結成THE WHOに加入する前のまだ無名のドラマーに過ぎなかったザックをマーは知らなかったそうですが、ザックの物怖じしない自信に溢れた彼のドラム・プレイは「緊張し過ぎて、マトモにスティックを握れない」人々とリハーサルしていたマーにとって理想のドラマーだったと言えるかもしれません。
 T-REXに大きな影響を受けているマーにとって、ザックはマークボランの話になると止まらなくなってしまう格好の相手でもあって、意気投合するのにそれほど時間はかからなかったのでしょう。
 そもそも、ザックの父親のリンゴ・スターは、T-REXの映画『Born to Boogie』の監督を務めていた関係で、その当時、子供だったザックは映画のセットにも立ち会えているのですから。
 1999年にELECTRONIC絡みの仕事を終了したマーは、KULA SHAKERのアロンザ・ベヴァンを含むメンバーを集め、当初は6人組のバンドでしたが、最終的には、マー、ザック、アロンザの三人のバンドになりました。
 結成当初に足りなかったのはヴォーカリストだったのですが、他のメンバーはその役目をジョニーが引き受けるように穏やかに仕向け、最終的にはマー自らがヴォーカルを取るようになったとのことです。
 当初、ジョニーがThe Healersのサウンドの理想として描いていたものは「T-REX、THE STOOGES、Brian Eno、それから、THE WAILERSがアリゾナ砂漠でぶつかり合っているような音」だったそうですが、曲によってはあのTHE SMITHSを強く思い起こすソング・ライティング指向のアルバムに仕上がっていると思います。
 「Down on the Corner」や「Something to Shout About」のようにTHE SMITHSを思わせるリリカルなアコースティック・サウンドが印象に残る曲もあれば、「The Last Ride」や「Need It」、「You are the Magic」のようなマンチェスター直系のグルーヴィーな曲もあり、前述の理想とは異なったサウンド指向にはなっているものの、THE SMITHSでのソング・ライティング指向を深く感じさせる作品になっていると思います。
 欲を言えば、ザックやアロンザのプレーを活かしたダイナミズムを感じさせる楽曲ももっと欲しかったところですが、派手なサウンドに囚われずに実直にムーヴメントと関係なく、THE SMITHS以降の正統的なUKロックを奏でているのは誠実と言えるかもしれません。
 結局、バンドはこのアルバムを1枚残したのみで終了し、マーはまたしても気まぐれの放浪の旅の如く、数々のバンドに参加していきますが、ザックはこの後、OASISや再結成THE WHOに参加して、UKロック屈指の名ドラマーとして活躍し、アロンザも再結成したKULA SHAKERに復活。
 このバンドは三人にとっては本当にキャリアの通過点に過ぎないものかもしれませんが、このアルバム・リリース後のザックとアロンザの活動や、2010年代のマーのソロ活動に繋がる重要な分岐点になったアルバムだと思います。
 少なくとも、2000年代のマーの音楽活動を語るうえで欠かすことが出来ないアルバムであることは間違いないと思います。



























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